ブラックホールクライシス
−見えないものをみる−

■ラリイ・ニーヴン『中性子星』■
■団獅子丸『ブラックホールの謎』■
■NHKスペシャル『銀河宇宙オデッセイ』(1990年)■
 第3集「接近・ブラックホール」


宇宙船ヘリオス号

探査宇宙船で星間空間を調査航行している.
(当然ながら,誰も行ったことのない未知空域)

星間を放浪しているブラックホールと遭遇する.
(“見えない”ので近づくまで気づかない)

ブラックホールの重力場に捕らえられ危機に陥る.
(なぜか,突然,機器の異常や船体の震動が生じる)

船体を分離したりして,かろうじて脱出する.
(クルーの機転や偶然のおかげ)

ホンマにブラックホールに気づかないのか!?
クルーがアホなだけではないか?

『銀河宇宙オデッセイ』の場合
小惑星の消失,背景の星雲の歪み ← 眼視観測!!
2人乗りの搭載艇イカロスで接近 ← 無人探査機!


■重力場で探知する■

重力は自由落下によって消去できる. 重力による航宙軌道の偏差を検出するなら別だが, 何の基準も存在しない宇宙空間で, 重力場そのものを直接検出するのは難しい. そこで重力の勾配である潮汐力を検出する.

潮汐力=宇宙船の重心での重力−宇宙船の縁での重力

:ブラックホールの質量
:ブラックホールと宇宙船の距離
:宇宙船の大きさ


潮汐加速度

具体的には

=10太陽質量
=100m

地球となる距離   =0.034太陽半径
=10-6地球となる距離 =3.4太陽半径

かなり近づかないと検出するのは難しい.

■X線放射で探知する■

宇宙空間といえども完全な真空ではない. 星間ガス中を運動するブラックホールは, その重力によって星間のガスを吸い込む. ブラックホール自体は光らないが, 吸い込まれたガスが高温になって光り出す.

ホイル=リットルトン降着

:ブラックホールの質量
:ブラックホールの速度
ρ:星間ガスの密度
ε:放射効率

降着半径  =2GM/2
質量降着率 =π2ρ
放射光度  =εNc2

具体的には

=10太陽質量
=10km/s
ρ=陽子の質量×1個/立方センチメートル
ε=0.1程度

=2.7×1015 cm=約180天文単位
=3.7×1013 g/s
=3.3×1034ε erg/s=8.7ε太陽光度

これはかなり明るい!
ただし,
速度が大きい → 光度は小さくなる
密度ρが小さい → 光度は小さくなる
効率εが小さい → 光度は小さくなる

X線を放射していれば容易に検出できるが, X線を出していない場合もある.

■重力レンズ効果で探知する■

重力場中では光が曲がるために, 重力場(天体)は光を集めるレンズのような働きをする. この<重力レンズ効果>によってブラックホールの存在を探知する.

天体の見える方向が偏差する.
弧状の像やリング状の像が生じる.
天体が増光してみえる.

◆重力レンズ天体の例

銀河団A2218 銀河団Cl0024

◆重力レンズによる光線のふれ角


曲げられる角度δφ

:重力源(レンズ)の質量
:光線とレンズの最接近距離(近レンズ点距離)

具体例:太陽の縁をかすめる光線

=太陽質量
=太陽半径


δφ=1.75秒角

◆ブラックホールの探知

重力レンズ効果によるブラックホールの探知とは
星の位置をきわめて精度よく走査して, 重力レンズ効果による系統的な歪みを検出する方法.
(マイクロ重力レンズ効果による増光を捕らえる方法もあるが, イベントが生じる偶然性に左右される)

上の式の両辺に,
宇宙船からブラックホールまでの距離
をかけて整理する.

具体的には

(ブラックホールの質量)=10太陽質量
/(近レンズ点距離 の見かけの角度)=検出精度0.1秒角
δφ(光線のずれの角度)=検出精度0.1秒角

=26.5光年

検出精度がもっと悪くても, ブラックホールからは十分遠方で安全な距離から, ブラックホールの存在を検出できる.

星の位置の精査だけなので, アホなクルーには頼らない,自動的な検出も可能.


■手作り重力レンズ■

重力レンズの幾何光学

普通の凸レンズでは平行光線は焦点に集まるが, (質点による)重力レンズでは, 光軸に近い光線ほど大きく曲げられるため, 焦点が存在しない.

質点重力レンズの設計

z:レンズの厚み
r:光軸からの距離
A:レンズの強さと材質の屈折率によって決まる定数

=− ln + 定数


メニューへもどる
天文学研究室へもどる