ガンダムワールド


91月報1.JXW 1991 0205-0207, 0209 C1.JXW 1992 1024, 1027-1028, 1104, 1213

1章 人類の第2の故郷−スペースコロニー Space Colony

1 ガンダムワールド

 西暦1999年,地球連邦政府が樹立し,同時に人類宇宙移民計画が発表された.スペースコロニー第1号の建設は2045年に着手され,さらにコロニーへの移民開始をもって,暦は宇宙世紀UC(ユニヴァーサル・センチュリー)へと移行した.宇宙世紀0050には人類の総人口は110億人に達していたが,そのときまでに200基以上のコロニーが建設され,90億人がコロニーへの移住を完了していた.また月面にも多くの恒久都市が築かれ,約10億人が居住していた.しかしそのころから宇宙への移民者は急速に減少し,地球に残った支配階級(アースノイド)と宇宙移民者(スペースノイド)の関係が悪化していく.そしてついにUC0079,地球からもっとも離れた月の裏側のスペースコロニー・サイド3は,ジオン公国を名乗り,地球連邦政府に対して独立戦争を挑んだのである.ここからガンダムの世界は始まった.
 ちなみに,ジオン公国と地球連邦政府の間の戦争は,宇宙世紀0079年1月3日に開戦し0080年1月1日に終戦協定が結ばれたので,歴史的には「一年戦争」と呼ばれている.その後,本編は,いくつかのエピソードをはさみながら,地球連邦の極右軍ティターンズと反連邦組織エゥーゴの間で戦われた「グリプス戦争」にジオン公国の残党アクシズも参入してみつどもえとなった「ハマーン戦争/第1次ネオ・ジオン抗争」(UC0087−0089),さらに「シャアの反乱」とも呼ばれる「第2次ネオ・ジオン抗争」(UC0093)へと続いていくのである.
 さてガンダムの世界におけるスペースコロニーは,直径約6.5km,長さ約30km(後期型は40kmの設定)の巨大な円筒で,2分に1回の割合で回転している(図1).人々は,その回転による遠心力を疑似重力として感じながら,コロニーの内壁で生活するのである.コロニーの構造については後で説明するが,とりあえず,サイド7のアイランド・グリーンノアの諸元を表1に示しておく.
 ガンダムの世界では,コロニー1基が1バンチと呼ばれ,40バンチほど集まってひとつの行政単位−サイドと呼ばれる−に昇格する.そしてこれらのサイドが,地球−月系のラグランジュ点近傍に,サイド1からサイド7まで7か所できている(図2).ただし一年戦争当時,サイド7(ノア)には,まだ未完成の第1号コロニー・グリーンノアがあるだけだった.
 ガンダムの世界は,すみずみまで非常に緻密に構築された近未来の架空世界だが,フィクションとしてはまれにみる完成度であった.また思想的/哲学的にもきわめて質の高い作品だったと思う(戦争が背景にはあるが,暴力賛美や戦争賛美があるわけではない,念のため).必見である.

2 ラーマ

 西暦2131年,深宇宙から謎の天体が太陽系にやってくる.当初,発見された年と順序にしたがって,31/439と登録されたその天体は,その後,インドの大叙事詩ラーマーヤナに出てくる神にちなんで,ラーマと名づけられた.そしてラーマに送られた探査機シータ(ラーマの妻)が送ってきた映像は,巨大な円筒型の金属物体だった.
 宇宙の彼方から飛来した巨大な人工物体ラーマは,直径20km・長さ50kmの円筒型で,スペースコロニーの一種だった.ラーマの外殻の厚みは2kmほどあり,したがって内部の空洞部分の大きさは,直径約16km,長さ約50kmである.さらに円筒世界の周囲をめぐるように,幅10kmの円筒状の海(円筒海)がある.ラーマの自転周期は4分なので,内壁での遠心力の加速度は0.56Gになる.ラーマの断面の予想図を図3に示しておく.またラーマの諸元を表2にまとめておく.
 スペースコロニーを扱ったSFでもっとも有名なのが,クラークの著した『宇宙のランデブー』であろう.もちろんこのSFの主題は,地球人とエーリアンとのファーストコンタクトなのだが,それとともに,クラークはこのSFで,スペースコロニーの中で生じるだろう現象を科学的な根拠に基づいてまざまざと描き出した.第1級のSFである.これもまた必読.

3 スペースコロニー

 スペースコロニーについては,上記の『機動戦士ガンダム』などでかなりヴィヴィッドに描かれたので,アニメを見ている人はよく知っていると思うが,あまり馴染みのない人のために,この章で簡単に説明しておこう.
 人類は狭くなった地球を離れてやがて宇宙へ移住しなければならない,という考え自体は非常に古くからある.ただし最初の頃は,惑星の上にしか人間は住めないという考え(惑星ショービニズム;惑星偏愛主義)が支配的で,月や火星など他の惑星の上にドーム都市を建設しようというものが多かった.そのような古い考えを脱却し,宇宙ステーションやさらには第2の地球と呼ぶべきスペースコロニーを建造して,宇宙空間に住むべきだという主張がされ始めたのは,今世紀も半ばを越えてからだろう(実際,人類の生存に適さない惑星を改造するよりは,宇宙空間に住むほうがはるかに経済的で,また技術的にも容易である).とくに1970年代,アメリカのプリンストン大学教授だったジェラルド・K・オニールが,既存の技術に裏付けられた具体的な構想を提唱してから,スペースコロニーの概念は広く知られるようになった(オニール1974年,1977年,1981年;GUNDAM CENTURY1981年;中富1985年も参照).
 スペースコロニーには,ドーナツ型のものや球型のものや円筒型のものなどいろいろなヴァリエーションがあるが,ここではオニールが論文や著書の中で一番詳しく語っていて,あたかもスペースコロニーの代表のようになってしまった円筒型のコロニー<島3号(アイランド3)>を念頭に置いて,コロニーについて説明していこう(冒頭に述べたガンダムの世界におけるスペースコロニーもオニールの島3号にもとづいているが,より細部まで完成されている).
(0)スペースコロニーに対する基本的な要請
 まずスペースコロニーの定義というか,スペースコロニーと宇宙ステーションや宇宙プラットフォームなどとの基本的な違いを述べておくと,スペースコロニーでは,地上0mと同じかそれに近い居住環境が実現されている点である.具体的には,@重力は1G(=9.8m毎秒毎秒)程度である.A空気は地球の空気と同じ成分で,気圧,気温,湿度などの物理量も概ね同じである.B自然な太陽光による昼夜がある.C陸地や水圏を持つ.D景色や生態系なども地球に似ていることが望ましい.
 スペースコロニーはこれらの条件をすべからく満足していなければならない.
(1)スペースコロニーの構造
 オニールの提唱した島3号モデルは,円筒型で,2つの底面に半球をかぶせたような形をしている(図4).円筒の直径は6.5km,長さは32kmという非常に巨大なものである(図5).
 地球と同じ重力環境を得るために,通常はコロニーを対称軸のまわりに回転させて,遠心力による疑似重力を生み出す(したがってスペースコロニーは球,ドーナツ,円筒など回転対称な形をしている).オニールの島3号モデルの場合,円筒の中心軸のまわりに114秒に1回自転させることで,内壁での遠心力による加速度がほぼ地表の重力加速度に等しくなるようにしている(スペースコロニーの基本力学については次節で述べる).
 また円筒の側面は軸に沿った方向に6つに等分されていて,交互に「陸地」と「窓」になっている(図4左).幅3.4km,長さ30kmの細長くしかもへこんだ形状をしているために,「陸地」は「谷」とも呼ばれる.この「陸地」は1m程度の厚さの地面からなる居住部分である.この地面の厚さが,大気と共に,宇宙空間から飛来する有害な宇宙線を防護する役目を果たす.島3号の「陸地」の部分の総面積は,およそ325平方kmほどで,ここに1000万人が住める見込みである(一人当りの居住面積は,33平方mぐらいになる).
 一方,「窓」は紫外線などを通さないガラスからできている.「窓」の部分の外側には,コロニーの端から斜めに,3つの細長いモザイク状の平面鏡がつけられている(図4右).そしてコロニーの自転軸を太陽の方向に向けておくことによって,コロニーの軸に平行にやってきた太陽光線が,平面鏡で反射されてコロニー内部に入射し,「窓」とは反対側の「陸地」を照射する仕組みになっている.平面鏡の傾きを変えることによって,日照量や日照時間を変え,昼夜や季節を作り出すことができる.3つの「陸地」のそれぞれで,異なった時間帯や季節を持つこともできる.
 円筒の鏡を接続している側には,コロニー内で発生した廃熱を宇宙空間へ放出する放熱器がついている.またもう一方の太陽に向いた側には,無重量工業区画や通信設備,ドッキングベイなどがある.さらにコロニーの周辺には,コロニーのエネルギー源である太陽発電衛星や,コロニーが自給自足するための農業衛星が設けられる.
 以上のような巨大なスペースコロニーの総重量は3000万トン以上と見積られている.
(2)スペースコロニーの設置場所
 地球の近傍でスペースコロニーを設置するのにもっとも適切な場所は,地球−月系のラグランジュ点だと考えられている(図6,図2も参照).
 地球と月の近傍の空間に置かれて,地球や月とともに地球のまわりを公転しているコロニーには,地球からの重力と月からの重力そして回転に伴う遠心力が働く.地球の近くでは地球の重力が優るだろうし,月の近くでは月の重力が優っているだろう.また地球と月の両方から離れた場所では,遠心力が優ることになるだろう.その結果,地球−月系のまわりの空間には,地球の重力,月の重力,そして回転の遠心力の3つの力の釣り合った,力学的な平衡点が5つ存在し,それらをフランスの数学者/天文学者ジョセフ・ルイ・ラグランジュにちなんで,ラグランジュ点と呼んでいる.
 ラグランジュ点のうち,まず3つは,地球と月を結ぶ線上にあり,地球と月の間で月に近いところにある点を第1ラグランジュ点L1(ガンダムでのサイド5ルウムのあったところ),地球からみて月の裏側の点をL2(サイド3ムンゾ/ジオン公国),そして月からみて地球の裏側の点をL3(サイド7ノア)という.これら3つのラグランジュ点は直線上にあるために,「ラグランジュの直線解」とも呼ばれている.
 残りの2つのラグランジュ点は,地球と月の公転軌道面内で,地球と月を頂点とする正三角形のもう1つの頂点の位置にあり,月からみて公転軌道前方をL4(サイド2ハッチとサイド6リア),公転軌道後方をL5(サイド1ザーンとサイド4ムーア)と呼ぶ.不思議なことに2つの天体の質量をどのようにとっても,2つの天体の重心とL4(あるいはL5)は常に正三角形をなす.そのため,L4とL5は「ラグランジュの正三角形解」と呼ばれている.
 これらの中でとくに第4ラグランジュ点(L4)と第5ラグランジュ点(L5)は,安定な平衡点なので,他のラグランジュ点よりも力学的に有利であり,したがってコロニーを設置する最初の候補地だと考えられている.
 さてL5(エルファイブ)などに設置されたコロニーは,実際には地球と月以外にも太陽からの力も受ける.その結果,地球,月,太陽,そして(質量の無視できる)スペースコロニーの相互関係の力学は,制限4体問題というややこしい天体力学の問題に帰着する.幸いにして,この制限4体問題はすでに解かれていて,コロニーはL5のまわりを楕円に近い軌道を描きながら,89日の周期でゆっくりとまわることが知られている.この軌道の全長は80万kmもあるので,軌道上には数千基のコロニーを建設できるだろう.さらにL5およびコロニーは,約1カ月の周期で地球の周囲をまわり,1年で太陽を1周する.
(3)スペースコロニーの建設方法
 スペースコロニーは,互いに逆方向に回転する2つの円筒が機械的に結合されたペアで作られる.コロニーが単独だと,自転によるジャイロスコープの効果によって,自転軸が空間に対して固定されてしまい,太陽の方向に自転軸を向けておこうとしたら大きなエネルギーが必要になる.しかしペアにして互いに逆回転させておくと,全体としては角運動量が0になるため,自転軸の方向を太陽に向けておくことが容易になるのである.最近リリースされた『軌道戦士ガンダム0083』でも,コロニー開発公社がコロニー再生計画のためにスペースコロニーを移送中だったが,ちゃんと2基1組になっていた.
 スペースコロニーを建設する材料は,構造材料のアルミニウムやチタニウムや窓ガラスの材料の珪素,水の質量の9割を占める酸素など,大部分は月から運ばれる.月からの原料の輸送には,質量駆動器マスドライバーが使われる.マスドライバーは線形加速器の一種で,電磁的な力によって原料の入ったバケツを加速して,バケツの中身のみを月面の脱出速度である秒速2.4km以上の速度で月面からほうり出す装置である.結局,地球の深い重力井戸の底から持ち上げられるのは,水素と食料,高度技術製品そして人である.いや人以外の材料は,将来的には小惑星帯からすべて運ばれるだろう.ガンダムの場合も,ルナU(ツー)は,もともと資源を採掘するために小惑星帯から運ばれたもので,もとの名を小惑星ジュノーという.木星船団というのもあったね.
(4)開放型スペースコロニーと密閉型スペースコロニー
 オニールのスペースコロニーには,採光のための「窓」領域があるため,コロニーの内面全体を利用できない.コロニーの内面全部を有効に利用するために,「窓」をなくして,自然光でなく,人工的な明りで内部を照明するようにしたものを密閉型スペースコロニーと呼ぶ.それに対して,「窓」があるものを開放型スペースコロニーと呼ぶ.
 たとえば『機動戦士ガンダム』の場合,大部分が開放型スペースコロニーだが,サイド3(ジオン公国)のコロニーが密閉型だった.そのためにソーラ・レイと呼ばれるコロニーレーザー砲を作ることができたのである.すなわち一年戦争の終局間際,サイド3(ジオン公国)の第3号コロニー・マハルは,住民を強制疎開させた後,内部をアルミニウムでコーティングし,コロニー自体を一つのレーザー砲とする超兵器に改造されたのである.また『宇宙のランデブー』に出てきたラーマも密閉型コロニーの一種である.
 開放型スペースコロニーの場合,陸地部分の照射によって,かなり強い窓風<ウィンドウウィンド>が吹くことが指摘されている(松田1983年).したがって,本書において,とくに流体力学的な問題を考える場合は,しばしば密閉型コロニーを想定する.

4 スペースコロニーの設計

 コロニーの半径をR,コロニーの回転角速度をΩとすれば,コロニーの外殻の厚みが無視できるとしてコロニーの内壁における単位質量あたりの遠心力,すなわち遠心力加速度gは,
     g=RΩ2 (1)
と表せる.コロニーの自転周期P(=2π/Ω)を使えば,(1)式は,
     g=R(2π/P)2 (2)
と表すこともできる.ちなみにコロニー側面での回転速度Vは,
     V=RΩ=2πR/P   (3)
である.これらの式が,コロニー設計の基本式である.
 上の(1)式から(3)式を使えば,電卓を叩いて表1や表2の諸元を求めたり,任意のコロニーを設計することができるだろう.電卓を叩くのが煩わしい人は,プログラム
     <COLONY>
を走らせてもらえればよい.プログラムの指示にしたがって,加速度なり,コロニーの半径なり,自転周期なりを指定すれば,他の量を計算して表示してくれる.
 またスペースコロニーを設置する場所,ラグランジュ点を求める式もそれほど難しくないが,ここでは省略するので,興味のある人は参考文献を参照していただきたい(『新・宇宙を解く』).一応,ラグランジュ点を求めるためのプログラム
     <LAGRANGE>
を用意したので,それ走らせて,天体の質量比(地球と月の場合は0.0123)を指定すれば,任意の質量比を持つ天体周辺での5つのラグランジュ点を得ることができる(図7).プログラム<LAGRANGE>では,2つの天体(地球と月)の距離を1としてある.画面には,天体の重心が赤い小円で,地球が空色の小円で,月が黄色の小円で,そして重心を中心とする半径1の円が白い円で表示され,5つのラグランジュ点は緑色の小円で示される.さらに画面右側には,地球と月の重心を原点とし,月の方向をx軸とする直角座標(x,y)におけるラグランジュ点の座標値が示される.
 いろいろな天体周辺において,独創的なスペースコロニーを設計していただきたい.

参考文献

福江 純「スペースコロニーのボール投げ−回転系の投体運動プログラム−」ハードSF研究所公報,40,34(1990年). 福江 純「スペースコロニーのボール投げ−スペースコロニーの物理学@−」天文月報(8月号),84,262(1991年). 『宇宙翔ける戦士達/GUNDAM CENTURY』(OUT9月号増刊)みのり書房(1981年) アーサー・C・クラーク『宇宙のランデブー』(南山 宏訳)早川書房(1985年) O'Neill, G.K. 1974, Physics Today, Sept., 32. ジェラルド・K・オニール『宇宙植民島』(木村絹子訳)プレジデント社(1977年) ジェラルド・K・オニール『スペース・コロニー2081年』(小尾信彌訳)PHP研究所(1981年) 中富信夫『宇宙ステーション1992』新潮文庫(1985年) Matsuda, T. 1983, J. Phys. Soc. Japan, 52, 1904. 横尾武夫編『新・宇宙を解く』恒星社厚生閣(1993年)37節

表1 サイド7グリーンノアの諸元
=========================
直径     2R =6.5km
長さ        L   =30km
自転周期      2π/Ω=2分
自転角速度     Ω   =0.0524 s-1
内壁での回転速度  RΩ  =170 m s-1
内壁での遠心力加速度RΩ2 =0.9 G
総質量 M =数千万トン
人口      3000万人(予定)
コロニータイプ 開放型
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1G=9.8 m s-2

表2 ラーマの諸元
=========================
外径     D =20km
内径        2R  =16km
長さ        L   =50km
円筒海の幅     W   =10km
自転周期      2π/Ω=4分
自転角速度     Ω   =0.0262 s-1
内壁での回転速度  RΩ  =209 m s-1
内壁での遠心力加速度RΩ2 =0.56 G
加速航行時の加速度 a   =0.02 G
総質量 M =約10兆トン
コロニータイプ 密閉型
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1G=9.8 m s-2


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