95summer 1995年 天文天体物理若手夏の学校 集録 p88−p92 より


観測と理論の信頼性分科会(@95夏の学校)

Dyson Civilization surrounding an Accretion Disk


福江 純(大阪教育大学)

 “一体、ナニをしゃべればいいんじゃあ!”と叫んだよーなイロモノ講演、 “一体、どないな風にまとめたらエエネン!”という気もするけど、 でも、聡子さんのために、{\bf ガンバリマース}。
#“信頼性”からは少し外れる部分もあるかと思いますが、その点はご容赦のほどを。

■研究者の信頼性

 観測にせよ理論にせよ、研究をする主体はヒトである。 20年近く業界にいる研究者の端くれとして、まず研究者の信頼性を評価してみたい。

□20’s:この業界に入ったばかりの頃(みなさんですね)は、 主観では、スタッフや先輩はもちろん同輩も、まわりのみんなが賢くみえ、 したがって自分はアホに思えるものだ。 客観的に見ても、これには正しいものがある。 はっきり言って、知識も経験もない「無知なるアホ」である。
#みんなもアホだから別に恐くはないんだが。
□30頃:主観では、自己評価ができるようになる。 すなわち、自分の研究能力や仕事の位置づけがミエルようになる。 研究以外でも、自分自身の力量が見積もれるようになる。 これを客観的にみると、ナマイキで、「自信過剰のアホ」にみえる。
□40頃:ぼくがちょうどここだが(でもまだ39!)。 主観的に思うと、研究も研究以外のものも含め、他人の評価ができるようになる。 一方、自分自身を客観的にみるのは難しいが、客観的にみれば、 「やっぱり(みんな)アホ」なんや、と思う。
□50、60:はわからないが、おそらく、「ただのアホ」、 「けっきょくアホ」といった辺りに落ち着くんだろう。
 そこで、研究うんぬんをいう前に、まず、

大前提 自分はアホだと認識しよう

すべてはそこからはじまる。〜なんてたってアホドル〜

■自己信頼性

 つぎに、自分の研究の弱点などについて自己評価しておきたい。
#ちなみに、ぼくは、降着円盤関係の理論屋さんです。

□自己評価
 アイデア…はマアマアだと思う (79点ぐらいをあげたい…80点にしていたが推敲で1点引いた)
 計算能力…になるとウーム(ぼくの場合、ここで研究内容に制約がかかる)
 詰  め…が甘い(これは、自分の研究の弱点というより、自分の弱点か?)
□自分の研究をどれくらい信じているか?
 これには、@「信仰/信念」とA「信用」の2つの意味があるだろう。
 まず@、前者の意味では(自分の研究を)信じていないと、 研究を進めることは不可能ではないだろうか。 「信仰/信念」こそが研究推進の原動力だ、と思う。 ただしもちろん、盲信はイケナイ。 批判的な信仰心であるべきだろう (言い方を変えれば、間違っていたときには、すぐコロブことも必要)。
 一方A、後者の意味では、自分の研究は大変クェスチョナブルである。 計算間違い・勘違いは日常茶飯事だし、ついこの間も、 定式化の係数を間違っていることに、論文をあらかた書いた辺りで気づき、 計算のし直しとなった…また埋め合わせはするっス
 ということで、以下の経験的定理が得られる。 <論理にギャップがあるのは重々ショーチだが

定理1 自分の計算を信用してはならない
系 1 ましてや他人の計算なんか信用できない

 もっとも、これは皆そう思っているだろう。

定理2 したがって、自分の計算はとことんチェックする

 ま、これも皆してることだろう。

     定理3 ただし、どっかで見切りをつける

 これが難しい。 エエカゲンだとますます信用されないし、完全主義だといつまでも完成しない。 何事も中庸が大事だが、見切りと見通しができるようになれば、一人前かもしれない。
#ぼくは見切りが早い(=詰めが甘い)。

■その前史

 で、表題の“Dyson Civilization surrounding an Accretion Disk”だが、 これは一言で言えば、ダイソン球(ダイソン殻)を降着円盤に適用したらどうなるか という話だ(参考文献参照)。 もっとも最近になってイキナリ出てきたわけじゃなく、 それなりに暖めてきたテーマでもある。
 ぼく自身は、降着円盤や宇宙ジェットについて、 20年近く関わっているが、実は、SF歴の方が長く、 SETIとか高度宇宙文明についても関心がある。 そんなわけで、降着円盤について学ぶにつれ、じゃぁ、そのまわりで、 高度宇宙文明はどうなるか? という方向に想いが進むのは自然の理である。 そして10年ぐらい前から、簡単な考察の結果をハードSF研究所の公報で発表したり、 本に書いたりしてきた。
#ハードSF研究所ってのは、SF作家で科学解説家の石原藤夫氏が主宰する団体で、 (あのコンノ氏が、何が悲しゅうて会わなあかんねんと思った、とぼくが思っている) 平林さんとか、(林)左#絵子さん、半田さん、なんかも所員である。
 その後、降着円盤の研究が進み、輻射場について考慮し始めて、 photonfloater という概念を展開し、4、5年前から、 ハードSF研究所の会合で発表したり公報に載せたりしてきた (最近の『天文月報』に連載されたもの)。 また、観測の方でも、HSTが、M87をはじめとして、 活動銀河中心の降着円盤を解像し始めた。 たとえば、中央に黒い穴の開いたNGC4261もすごかった。 はじめて新聞でみたときには、もう、ほんと、すごくドキドキした覚えがある。 いや、理論屋としては、何をイマサラという気もしたが、でもやっぱりドキドキした。 見かけ上の黒い穴の領域はチリで隠されているというのが一応の解釈だが、 ダイソン構造体で覆われていても、同じように見えるはずである。
#山本弘さんの『サイバーナイト:漂流・銀河中心星域』は、 少なくとも降着円盤屋さんや活動銀河屋さんは、必読だと思う。 ハードSF研究所の会合で一度会ったことあるけど、この人は、 そんじょそこらの研究者より、よく勉強してるでぇ、ホンマ。
#また余談だが、山本弘さんも関係している“と学会” (疑似−とんでもない−科学について笑い飛ばす学会?)の 『トンデモ本の世界』も笑える。 疑似科学についての大変面白いレビューにもなっており、一読の価値がある。
#それから講演ではちょこっとだけ触れたけど、いま、降着円盤の分野には、 advection dominated disk (適切な訳語がないけど、<落下円盤>か<降落円盤>というのはどーだろう) という新しい波がやってきている(時代のトレンドはαからβに移りつつあるのだ!)。 来年は、標準降着円盤モデル(αモデル)の信頼性について、 だれか降着円盤屋さんに話してもらうことをお勧めしたい。
 というように、論文にまとめる“機は熟して”いたのである… 本当は、ただ気分が乗っただけ、というのが正しいのだが。

■その科学

 さて表題の論文の骨子は、以下のようなきわめてシンプルな内容である (詳しくは、『天文月報』の連載「銀河中心核文明(降着円盤文明)その2 −サンフックからフォトンフローターへ−」参照)。

アブストラクト: 活動銀河中心核に存在する超大質量ブラックホール周辺の降着円盤からは、 膨大な量のエネルギーが放射されている。 そのようなブラックホール−降着円盤系のエネルギーを利用するためのステーションとして、 降着円盤自身から放射される強烈な輻射圧によって支えられた浮遊プラットフォーム <フォトンフローター>の配置や安定性について考察した。 まず降着円盤系から十分遠方に配置したファーフローターの場合、 (超大質量ブラックホールの)重力と(降着円盤からの)輻射圧が釣り合う 臨界浮遊角度が存在することがわかった。 降着円盤の直上に浮かべたニアフローターでは、やはり特定の高度−浮遊高度−で 重力と輻射圧が釣り合う(より一般には浮遊半径も存在する)。 しかもこの浮遊高度は、力のバランスにおいて、安定な平衡点であることがわかった。 なお降着円盤の軸上に置いたアクシズフローターの場合は、不安定でまた危険である。

 最初に簡単のために、ダイソン構造体 (ライトセールないしコロニープラットフォーム;以下セールとかフローターと呼ぶ)が、 降着円盤の表面に平行になっており、円盤直上で中心天体のまわりを公転しているとしよう。 フローターには中心天体からの重力と遠心力そして円盤からの輻射圧が働く。 動径方向にはケプラー回転で釣り合っているとして、 以下では鉛直方向の力学的釣り合いを考える。
 まず中心天体(質量M)の重力の鉛直方向の成分は、 円筒座標系でセールの位置を(r,z)として、
        GMz     GMz
   g=−「「「=−「「「
          R3      r3
である(R2=r2+z2)。 ただし、フローターが降着円盤の表面近くに浮かんでいることから、 動径rに比べてzは十分小さく、したがって上の式でR〜rと置いた。
 またセールは降着円盤の表面近くにあるので、セールが受ける輻射流束fは、おおざっぱに、
           3GMN
   f=σT4= 「「「「
           8πr3
となる(Tは降着円盤の表面温度、Nは質量降着率)。
 セールの面積をS、質量をm、アルベドをA、光速をcとすると、 輻射圧による加速度は、(1+A)Sf/mcなので、 フローターが鉛直方向に受ける加速度は、
      GM             3NS
   az=−−[−z+(1+A) 「「「「]
       r3            8πcm
になる。
 さて、すぐわかるように、ある特定の高度でのみ、セールに働く鉛直方向の重力と、 セールを持ち上げる鉛直方向の輻射圧が釣り合うことができる。 その特定の高度−浮遊高度zF−は、
            3NS
   zF=(1+A)−−−−
            8πcm
となる。 具体的には、質量降着率Nを1太陽質量/年、m/Sをかなり大きめとして 1g/cm2ぐらいにとってみると、
   zF=16.7(1+A)天文単位
ほどになる(ちなみに銀河中心では、典型的なブラックホールのサイズは2天文単位、 降着円盤のサイズは1光年〜10万天文単位ほど)。
 重要な点は、この浮遊高度zFが、力のバランスにおいて安定な平衡点であるということだ。 すなわち、セールに働く力のうち(動径rを固定すれば)、 輻射圧は高度zによらず一定であるが、重力の鉛直成分は(降着円盤近傍では)高度zに比例している。 そのため、セールの高度zが上の浮遊高度zFより高いと、重力の方が強くなり、 セールの高度は下がる。一方、浮遊高度より低いと、輻射圧の方が強くて、 セールの高度は押し上げられる。結局、セールの高度が少々ずれても、 セールは勝手にこの浮遊高度に落ち着くのである。
 以上のように、降着円盤表面近傍に配置した浮遊プラットフォーム <ニアフローター>の場合、その浮遊高度が安定だ!!!というのが 非常に魅力的な点なのだ。

■投稿:どうしてパブリに門前払いをくったのか?

 講演でも話したが、表題の論文は最初ネーチャーに投稿したことを、 まず告白しておかなければならないだろう。 ネーチャーでは、J・マドックスというエディターが、 信念というかポリシーを持っていて、ネーチャーに相応しいかどうかは、 レギュラーアドバイザーのアドバイスを受けながら、かなりエディターが判断している。 エディターを通過した論文はレフリーに送られ、 インパクト性やサイエンス面などで審査される。 表題の論文はレフリーには回ったが、ダイソン殻の焼き直しでサイエンス面が弱いと 判断され、ネーチャーには向かないとリジェクトされた。
#ネーチャーへは、ダメもとだと思って、気軽に投稿することを勧める。
 で、その後、パブリへ投稿したのだが、その対応がちょっとね。
 内容としては、“詰めの甘い”論文であり、サイエンス面でそう判断されたのなら、 しゃーない、ということにもなろうが、(当時のアホ編集部は)レフリーにも回さずに、 SETIはパブリがカバーする研究分野には含まれないから ICARUSあたりに投稿したらどうか、などと言って門前払いしてきたもんで、
   オイオイ何考えてんの?
てなことになったわけだ。 今後のこともあるし(SETIを除外するということが前例になっては いけないということ)、ちょっともの申したわけである。
 今回の件に限らず、パブリの編集部の対応はしばしばヒジョーにまずい。 そしてそれがため、有力な投稿者がパブリから離れていった例をいくつも知っている。 編集理事も人間だから、間違いや判断ミスは冒すだろうし、かなり主観も入るだろうが、 もうちょっと余裕が欲しいものだ。 その他、推測・憶測いろいろ含め、あれやこれや、言いたいことはヤマほどあるけど、 まぁ、あまり生産的でもないし、やめとこう。
 そうそう、でも一つ言っておきたいのは、論文審査というのは、 人間が人間を裁くのだから、過誤はあるし、また審査側が権力をもっているだけに、 不本意な結果になることは確かに多い。 しかし長い目で見れば、パブリ編集部との長年のやり取りは、 (反面教師的な体験も含め)ぼくにとってはトータルではプラスになってきた、と思う。

■檄:なぜパブリに投稿し続けるのか?

 これについては、6年前に、若手の会のサーキュラーに飛ばした檄文を 一部引用して答えとしたい。

(1989年、サーキュラーNo.3より)
引用開始>>>>>>>>>>>>>>>>>>
パブリの問題について
1989年1月6日
福江 純
 最近のサーキュラーにパブリの問題が取り上げられているのを拝見しました。 関係者の一人としてコメントをしておく必要があるように感じます。
 筆者がパブリについて関心を持ち始めたのは、1984年ごろ、 日本人の論文が外国誌にかなり流れていることに気づいてからです。 簡単なサーベイをした結果を編集部に伝え、 それに対する回答が内田編集長のアピールとなりました。 自分の論文を読んでもらうために外国誌に出すんだ、という考えは、 その頃も若手の一部にありました。 そしてそれは利己主義の身勝手な振る舞いだと考えていましたし、現在も考えています。 ただ、筆者の意識は、もっぱらパブリ上層部の年寄り連中に向けられており、 同年代を感化しようとしたことはありませんでした。 今回は、若干の反発を招くことも覚悟の上で、少しアジテーションしてみたいと思います。
 ではまず、なぜパブリに投稿すべきなのかを、逆説的に問いかけてみましょう。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
◆忠◆君に愛国心はあるか!?
 日本の天文学を将来的に発展させるために、 われわれ自身の研究発表メディアを持つことは第一歩だと言えます。 しかもそのメディアの条件としては、レフリーによる査読が厳格に行われ、 国際的な評価も高く、さらに世界の天文学をリードしていけることが、 必要最小限でしょう。そのためには、己を捨てて、お国のために尽くしましょう!
 論文を外国誌に投稿するのは国際的なんだという人もいるようですが、 たいていはエセ国際主義者です。 本当にインターナショナルならば、アメリカやヨーロッパの雑誌だけでなく、 インドやソ連の雑誌にも投稿すべきです。
 もちろん、日本の天文学の将来に身を捧げるために、 たまには外国誌で武者修行をすることはあるでしょう。
◆礼◆恩を仇で返すのか!?
 貴方も論文発表するからには、それ以前に、 日本天文学会で何度も講演していることでしょう。 また学会の会場で有益な示唆を受けたり議論をしたこともあるでしょう。 さらに若い人は、ひょっとしたら学会から旅費の補助などを受けたこともあるかも知れません (これは他の学会では見られない、天文学会固有のものすごく良い習慣なのですよ。 10年くらい前のサーキュラーを紐といてみて下さい。 筆者より少し上の貴方たちからすれば大先輩たちが、 この習慣を守るために命を張って闘ったのです)。
 さて、まさか講演など日頃は日本天文学会のお世話になっておいて、 論文は日本天文学会誌以外に投稿するというような、 後足で砂をかけるような真似をするわけではないでしょうね?  そのような所業を古来、「恩を仇で返す」と呼んでいます。 現世でそんなことをしていると地獄に落ちます。
 もちろん逆に言えば、主として外国で行って研究ならば、 そこの雑誌に投稿するのが礼儀というものです。
◆信◆学者としてのプライドはあるのか!?
 活字にしない限りその研究は最初から存在しなかったのと、 小数点以下6桁ぐらいまで同値です。 そして当然のことながら、論文は、他の研究者にご高覧いただき、 かつ引用してもらうために書くものです (ただし、読んでもらったというのが客観的な事実として残るのは、 引用されたかどうかですが)。
 さて、そこの君、パブリに出しても読まれない(すなわち引用されない)から、 読まれる(すなわち引用されやすい)外国誌に投稿するだって?  冗談じゃあない! たいしたこともない論文ならネーチャーに出しても引用されないし、 いい論文ならパブリに出しても十分引用される!  ようするに、おおざっぱに言って、メジャーと呼ばれるような雑誌に出すと 引用されるが、パブリに出しても引用されない、というような論文は、 単に業績リストを長くするだけの、一山いくらの論文ですよ。 もし高い志があるなら、パブリに出しても堂々と引用されるような論文をお書きなさい。 (なお筆者は、このような一山いくらの論文が無価値だと論じているわけではありません。 実際、一山いくらの論文の屍の上に質の高い論文が乗っているわけだし、 また業績リストが長いのは、就職などが有利という現実的な利点もあります。)
 もちろんプライドがあまりに重くなったときなど、他の雑誌に投稿するのは、 よい気分転換になります。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
 とまあ、以上は、多分に思想・信条の問題であり、 また理想論的な問いかけかも知れません。 が、筆者は原則的にはパブリに投稿するのが筋だと考えています。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<引用終了

 この後、パブリの(当時の)現状に対する一般からの不満とその分析、 改善案(実際にしたことやできること)などが書いてあるが、内容が古いし、 紙数の関係もあるので、省略する。

 いやー、しかし、エエ文章ですね、目のウロコが落ちましたか?
   ↑最近ハマッタ『ゴーマニズム宣言』(小林よしのり)の影響を受けている。
 なお、引用文中の一山うんぬんに関しては、

一般補助公理 何であろうと 90%はクズ (「スタージョンの法則」)

をあげておきたい。 これはSF作家のシオドア・スタージョンが“SFの90%はクズだ” といったことから出た法則だが、非常に普遍的な法則でもある (話題になった『マーフィの法則』にも収録されていた)。 引用文中にも述べているように、その90%が不要だといっているわけではない、 念のため。〜ムヨーのヨー〜

■スピンオフ

 ところで、詳しく述べるスペースはないが、降着円盤の鉛直方向の重力場が、 g=−GMz/R3という形をしていることは、かなり特異であり、 また降着円盤周辺の物理現象にとって重要である。その結果、たとえば、
・降着円盤からの輻射圧駆動風&アドベクションコロナ
・cloudy sky
などへスピンオフした(前者については、田島講演、渡辺講演を参照して欲しい)。
 ということで、

系 2 転んでもタダではおきないコト

となる。

■最後に:なぜこんな論文を書くのか?

 では最後に、なんでそんな論文書くねん、という質問に対する答えとして、 理論研究の遂行上のポリシーというか、理論の「公理」をあげておく。

公理1 禁じられていない限り 何でもアリ

 これは当たり前みたいだが、案外難しい。 とくに経験を積み、また自分の手法が確立するほど、逆に、 守備範囲が狭くなったりするものだ。 いろいろな用事に追われると、さらに難しくなる。 これを忘れないようにするため、宇宙はどーなってんだろう、 宇宙はどーなってんだろう、宇宙はどーなってんだろう・・・といつもいつも考え続け、 マインドコントロールするのは役に立つ。

公理2 ただし オモロイこと

 自分が面白くない研究は人も面白いと思ってくれない。 これも当たり前なんだが、ときどき抜け落ちてしまうものでもある。 SFではよく、“センス・オブ・ワンダー”というが、 ようするに、ドキドキ、ワクワクすることをしたい。

公理3 そして 間違いを恐れない

 なーに、間違ったら、やり直せばいいのである。

     ・・・・・

 とにかく、楽しいから気持ちいいから、研究なんだ。 映画でも音楽でも、面白かったモノは他人に伝え、面白さを共有したい。 それが人情ってもんじゃなかろうか? 研究にしたって同じだ。 #ぼくに言わせりゃ、天文の教育とか普及に無関心な人は、 まったくオモロない研究をしてるか、よ#っぽどのケチやで。
#しかし、「天文学と社会」分科会、なかなか関心が高かったのをみて、嬉しかったりしました。
 気をラクーにして、みんなで研究を楽しんでいきたい、じゃないスか …何事も分かち合えば、楽しさ2倍、苦しさ半分。理解はエクスタシーである。

 以上、何がなんだかわかんなーい状態ですが、たまにゃこんなのもいいでしょう。 とまれ、校長さん、事務局のみなさん、座長のみなさん、ご苦労さんでした。

参考文献
福江 純、1995、『天文月報』、88巻、第5号、199頁
福江 純、1995、『天文月報』、88巻、第6号、244頁
福江 純、1995、『天文月報』、88巻、第7号、291頁
山本 弘とグループSNE『サイバーナイト:漂流・銀河中心星域(上下)』 角川スニーカー文庫(1991年):続編『同U』もある
と学会編『トンデモ本の世界』洋泉社(1995年)
小林よしのり『ゴーマニズム宣言』扶桑社(1〜6巻)
Fukue, J. "Accretion Disks with a Cloudy Sky - Photon Floater.", PASJ, 48, 89 (1995).
Tajima, Y. and Fukue, J. "Radiative Disk Winds under Radiation Drag.", PASJ, 48, 529 (1996).
Watanabe, Y. and Fukue, J. "Accretion Disk Corona Advected by External Radiation Drag.", PASJ in press (1996).


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