スペースコロニー/Space Colony


スペースコロニー

スペースコロニー(space colony)とは宇宙空間に建造された巨大な構築物で, 地球上に近い環境が実現された宇宙居留地(ハビタット)である. 人類は狭くなった地球を離れてやがて宇宙へ移住しなければならない,という考え自体は非常に古くからあるが,昔は,惑星の上にしか人間は住めないという考え(惑星ショービニズム;惑星偏愛主義)が支配的で,月や火星など他の惑星の上にドーム都市を建設しようというものが多かった.そのような古い考えを脱却し,宇宙ステーションやさらには第二の地球と呼ぶべきスペースコロニーを建造して,宇宙空間に住むべきだという主張がされ始めたのは,今世紀も半ばを越えてからだろう(実際,人類の生存に適さない惑星を改造するよりは,宇宙空間に住むほうがはるかに経済的で,また技術的にも容易である).とくに1970年代,アメリカのプリンストン大学教授だったジェラルド・K・オニール(O'Neill 1974)が,既存の技術に裏付けられた具体的な構想を提唱してから,スペースコロニーの概念は広く知られるようになった.

スペースコロニーやその前段階である宇宙ステーションの概要を ごく簡単にまとめておく.

(1)宇宙プラットフォーム

宇宙プラットフォーム(space platform)は, 少し大規模な人工衛星のようなもので,内部は基本的に無重量である. 地球の観測や無重量実験そして月へ向かう宇宙船の中継ステーションとして, 早ければ2000年代初頭に地球周回軌道上に建設されるだろう.

(2)宇宙ステーション

宇宙ステーション(space station)は, 宇宙プラットフォームよりは大規模であり, さらに回転によってある程度の疑似重力を発生させている. また宇宙プラットフォームと同様, 地球の観測,無重量実験,中継ステーションなどを目的とし, 建設場所はやはり地球周回軌道上が想定されている.

example{ドーナツ型宇宙ステーション:
ウェルナー・フォン・ブラウンが1951年に提案した宇宙ステーションのモデル. 設定値(デフォルト)は,

乗 員 & : & 80人
サイズ & : & 直径75~m
重 力 & : & 0.38~G
& & 高度1700~kmで地球を周回する

(3)スペースコロニー

スペースコロニー(space colony)の定義というか,スペースコロニーと宇宙ステーションや宇宙プラットフォームなどとの基本的な違いは,スペースコロニーでは,地上0~mと同じかそれに近い居住環境が実現されている点である. 具体的には,(i)重力は1~G($=9.8~m/s^2$)程度である.(ii)空気は地球の空気と同じ成分で,気圧,気温,湿度などの物理量も概ね同じである.(iii)自然な太陽光による昼夜がある.(iv)陸地や水圏を持つ.(v)景色や生態系なども地球に似ていることが望ましい.スペースコロニーはこれらの条件をすべからく満足していなければならない. それゆえに,スペースコロニーは第二の地球などとも呼ばれる. またスペースコロニーの建設場所は,エネルギー的な観点などから, 地球と月のつくるラグランジュ点が適切だと考えられている (地球--月系の近傍空間で地球のまわりを公転しているコロニーには,地球からの重力と月からの重力そして回転に伴う遠心力が働く.地球の近くでは地球の重力が優るだろうし,月の近くでは月の重力が優り,また地球と月の両方から離れた場所では遠心力が優ることになるだろう.その結果,地球--月系のまわりの空間には,地球の重力,月の重力,そして回転の遠心力の3つの力が釣り合った,力学的な平衡点が5つ存在し,それらをフランスの数学者/天文学者ジョセフ・ルイ・ラグランジュにちなんで,ラグランジュ点と呼んでいる. ラグランジュ点のうち3つは,「ラグランジュの直線解」とも呼ばれていて,地球と月を結ぶ線上にある.残りの2つのラグランジュ点は,「ラグランジュの正三角形解」と呼ばれていて,地球と月の公転軌道面内で地球と月を頂点とする正三角形のもう1つの頂点の位置にある.後者の正三角形解のうち,月からみて公転軌道前方をL4,公転軌道後方をL5(エルファイブ)と呼ぶが,これらは安定な平衡点なので,最初にコロニーを設置するのには適当な候補地(サイト)だと考えられている.).

example{トーラス型スペースコロニー:
スタンフォード大学で検討したスペースコロニーのモデル. 設定値(デフォルト)は,

形  状 & : & ドーナツ型
居住人員 & : & 1万人
サ~イ~ズ & : & 半径830~m;内径130~m
自転周期 & : & 57秒(1~G)
昼  夜 & : & 主鏡と副鏡,ブラインドの組合せ
防護機構 & : & 外壁50~cm厚の岩石(対隕石用)
構造物重量 & : & 996万トン
内部重量 \footnote{建物,土壌,水,空気,人,動植物など.} & : & 50万トン

example{ベルナール球型スペースコロニー:
1920年代に惑星移住を唱えた英生物学者J・D・ベルナールによるモデル. 設定値(デフォルト)は,

形  状 & : & 球型
居住人員 & : & 1万人
サ イ ズ & : & 直径512~m
自転周期 & : & 30秒(赤道で0.95~G)
昼  夜 & : & 球を取り巻く34枚の主鏡と副鏡で導く
構造物重量 &:& 320万トン
内部重量 & : & 40万トン

example{シリンダー型スペースコロニー:
G・K・オニールが1974年に提唱したもの. オニールの提唱した島3号モデルは,円筒型で,2つの底面に半球をかぶせたような形をしている.円筒の直径は6.5~km,長さは32~kmという非常に巨大なものである.地球と同じ重力環境を得るために,通常はコロニーを対称軸のまわりに回転させて,遠心力による疑似重力を生み出す(したがってスペースコロニーは球,ドーナツ,円筒など回転対称な形をしている).オニールの島3号モデルの場合,円筒の中心軸のまわりに114秒に1回自転させることで,内壁での遠心力による加速度がほぼ地表の重力加速度に等しくなるようにしている. また円筒の側面は軸に沿った方向に6つに等分されていて,交互に「陸地」と「窓」になっている.幅3.4~km,長さ30~kmの細長くしかもへこんだ形状をしているために,「陸地」は「谷」とも呼ばれる.この「陸地」は1~m程度の厚さの地面からなる居住部分で,この地面の厚さが,大気と共に,宇宙空間から飛来する有害な宇宙線を防護する役目を果たす.島3号の「陸地」の部分の総面積は,およそ325平方kmほどで,ここに1000万人が住める見込みである.一方,「窓」は紫外線などを通さないガラスからできている.「窓」の部分の外側には,コロニーの端から斜めに,3つの細長いモザイク状の平面鏡がつけられている.そしてコロニーの自転軸を太陽の方向に向けておくことによって,コロニーの軸に平行にやってきた太陽光線が,平面鏡で反射されてコロニー内部に入射し,「窓」とは反対側の「陸地」を照射する仕組みになっている.平面鏡の傾きを変えることによって,日照量や日照時間を変え,昼夜や季節を作り出すことができる. 円筒の鏡を接続している側には,コロニー内で発生した廃熱を宇宙空間へ放出する放熱器がついている.またもう一方の太陽に向いた側には,無重量工業区画や通信設備,ドッキングベイなどがある.さらにコロニーの周辺には,コロニーのエネルギー源である太陽発電衛星や,コロニーが自給自足するための農業衛星が設けられる. 以上のような巨大なスペースコロニーの総重量は3000万トン以上と見積られている.

設定値(デフォルト)は,
形  状 & : & 円筒状
居住人員 & : & 100万人
サ イ ズ & : & 長さ33~km;直径6.5~km
自転周期 & : & 114秒(1~G)
昼  夜 & : & 地上と窓が交互に3つずつ
構造物重量&: & 3000万トン以上



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