X線輝線放射(X-Ray Line Emission)

X線など高エネルギーの領域で輝線(line)を放射するメカニズムには, 鉄など重い原子核の原子スペクトル線, サイクロトロン線,電子・陽電子対消滅線などがあります.

X線輝線/特性X線

原子はとびとびのエネルギー状態しかもてません. 原子が,高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ変化するとき, エネルギーの差に相当する特定の波長の輝線(line)が放射されます. X線領域のスペクトル線を特性X線と呼ぶこともあります.
水素原子のスペクトル線
水素のエネルギー準位
鉄原子のモデル

陽子1個からなる軽い原子核をもつ水素では, 原子スペクトル線は可視光近辺で放射されます. 元素の原子番号が増加し, 原子核に含まれる陽子の数が増えると, 原子核の電荷も大きくなるので, 原子核とまわりの電子の結びつきが強くなります. その結果,鉄のように, 多くの陽子や中性子からなる原子核をもつ重元素では, 原子スペクトル線はX線領域で放射されます.

鉄原子のモデル

ヘリウム的鉄のX線輝線

蛍光X線輝線
鉄原子を含むプラズマガスの温度が高くなると(1億Kぐらい), 中性鉄原子のもつ26個の電子のほとんどは電離してしまいます. 最内殻の電子2個()だけを残して, 安定なヘリウム原子のようになった電離鉄(鉄イオン)を, ヘリウム的な鉄イオン(Helium-like Iron ion)といいます. ヘリウム的鉄は,典型的には6.7keVのX線光子 ()を放射します.
逆にいえば,観測で6.7keVのX線光子がみつかれば, 鉄がほとんど電離してしまうほど高温(約1億K) のプラズマが存在していることを意味します.

プラズマガスの温度が低いと(たとえば1万Kぐらい), 鉄原子は中性かあまり電離していません. そこへ近くから強いX線()が降り注ぐと, 鉄原子の一番内側の電子()が弾き飛ばされたりします. そして電子の抜けた所へ上のエネルギー準位の電子 ()が落ちて, X線光子()が放射されます. これを蛍光X線(fluorescent line)といいます. 中性鉄の蛍光X線は,典型的には6.4keVのX線光子 ()を放射します.
逆にいえば,観測で6.4keVのX線光子がみつかれば, 鉄があまり電離していない低温のプラズマがあり, しかも近くに強い放射源があることまでわかります.

蛍光X線スペクトル

電子・陽電子対消滅線

電子() とその反粒子の陽電子()が出会うと, アインシュタインの式(E=mc2)にもとづいて, 電子と陽電子の質量すべてがエネルギーに, 具体的にはガンマ線光子()に変わります. これを電子・陽電子対消滅(electron-positron pair annihilation)といいます. 電子・陽電子対消滅では,511keVぐらいのガンマ線光子が発生するので, その特徴的なスペクトル線を, 電子・陽電子対消滅線と呼びます.


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