『サイアス』廃刊に抗議の弁


朝日新聞出版局
アエラムック編集部殿

福江 純@大阪教育大学です

前略

アエラムック『恐竜学がよくわかる』への原稿執筆依頼、
大変ありがとうございました。

嬉しいことですが、いろいろ悩む点もあり、
即答を避けさせてもらいました。
内容や担当者の対応ではありません。

問題は『サイアス』の廃刊です。

この一言で、もうおわかりかと思いますが、
できれば、以下も読んでください。

この12月号で、『科学朝日』『サイアス』と続いた、
伝統ある朝日新聞の科学雑誌がなくなります。
私自身、40年来の朝日新聞の愛読者であり、
『科学朝日』『サイアス』と多大な恩恵にあずかりました。
『サイアス』で記事を書かせてもらったときには、
非常に名誉に感じたことを覚えています。

そこへもってきて、今回の廃刊騒動です。
科学の啓蒙は朝日のウリだと思っていたので、
これは日本社会と文化に対する背信行為だと思います。
といっても、私には立花隆さんのような影響力もありませんし、
歯噛みするだけで、何もしないでずるずると来てしまいました。
しかし、白川英樹さんがノーベル化学賞を受賞したことが、
本日11日の朝日朝刊・夕刊の一面トップで、
大々的に報じられているのを読むうちに、
“『サイアス』は廃刊するくせに、これは欺瞞ではないか”
という気持ちが、ふつふつと沸いてきました。
『サイアス』の廃刊がなければ、今回のノーベル賞受賞を機に、
『サイアス』誌上でもさまざまな特集が組まれ、
科学を盛り上げる気運がぐっと高まったはずです。

やはり今回の『サイアス』の廃刊は、
日本文化の一翼を担う天下の大朝日としては、
誠に愚かな選択だったと思います。

私自身は、就職前後よりこれまでの10数年間で、
さまざまな雑誌から種々の原稿依頼を受けてきましたが、
本当に物理的に不可能だった数回を除いて、
原稿依頼を断ったことは一度もありません。
私のような微力な人間でも、剣より強いペンの力で、
少しでも科学の啓蒙普及に役立てばと信じてきたからです。
今回も、その意味で悩むものがあったのですが、
やはり、今回に限って、私にできる唯一の抗議行動として、
上記アエラムックの原稿執筆は断らせてもらうことにしました。
まぁ、一度断れば、つぎはないかもしれないですが、
蟷螂の斧の一振りと感じてもらえれば、それでよしとします。


アエラムックおよび出版局におかれましては、
『サイアス』廃刊という重みを自覚していただくと同時に、
日本文化の担い手としての朝日の役割を、
いまいちど熟考していただきたく存じます。
その上で、『サイアス』廃刊によるダメージを回復するように、
可能ならば新しい科学雑誌を創刊すべく努力いただき、
21世紀へ向けて、今後も新しい息吹を育ててくださるよう、
強く希望いたします。

以上、メールにて、失礼いたしました。
また、内容に鑑み、担当者名は省略させてもらいましたが、
その点もご了承ください。

2000年10月11日
大阪教育大学
福江 純