Astro-E IIへ向けて

GO AHEAD

もちろんAstro-Eと宇宙開発のことだ.

2月10日10時30分に打ち上げられた, 次期主力X線衛星アストロEは, M-Vロケットの故障(らしい)によって, 海の藻屑と消えた. 天文の業界は割と狭い業界で, アストロEの開発に携わった研究者には知り合いも多く, 一緒に仕事をしたりデータをもらったこともあり, 機器開発に関わってきた何年間もの労苦を思うと, 何と言っていいかわからない. ぼく自身も,宇宙科学研究所の相模原キャンパスまで, アストロEを見学に行ったり, 観測プロポーザルを共同で出したりしているだけに, 非常に残念で悔しい. 何よりも,アストロEの損失は, 日本のみならず世界の天文学界にとって, 非常に大きな痛手である.

たいていのことは笑い飛ばせるようになったが, “人の生き死に”と今回の“アストロE”は, マジで洒落にならん.

しかし,にもかかわらず,だからこそ, これからも逞しく前進しなければならないと思う. 強く思う.

変な副産物かもしれないが, 日本の宇宙ロケットも失敗することがある, ということが,広く理解されるようになったかもしれない. 少なくとも,ぼく自身は, 今回のアストロEはまったく心配していなかったので, 驚きを超えて茫然自失状態だった. もちろん昨年もHIIロケットが打ち上げ失敗したように, ロケットの安全係数はかなり小さく, 打ち上げが失敗する可能性はかなり大きい. ロケット打ち上げは,きわめてハイリスクハイリターンな事業で, だからこそ,現状は国家規模の事業なのだ. (詳しくは,たとえば 宇宙作家クラブのHP参照)

実際,今回の打ち上げ失敗も, 無理な予算削減が根本的な原因だと考えられている. (日本の宇宙開発予算はNASAの10分の1以下ぐらいだったはず). それを日本の場合,関係者の超人的な努力でカバーしてきたのだが, 関係者がどれだけ頑張っても, あまりに少ない予算では限界があるのも事実だろう.

では,そんな金のかかるハイリスクな国家事業は, 無駄なのだろうか?  宇宙開発より,今日のパンを2倍にした方がいいのだろうか?

もう一度,選んで欲しい. [(C)ダン・シモンズ『エンディミオンの覚醒』]

重力の檻に閉じこめられた未来か
宇宙というフロンティアに広がる無限の未来か

GO AHEAD

追記:
【選べ,もう一度!】
というのは,ダン・シモンズ『エンディミオンの覚醒』からの引用だが, 期間限定ガンダムトリビュートマガジン 『G20(ジー・ツー・オー)』(ASCII)第9号(最終号)の, ガンダムサイエンス考現学(by鹿野司)もイイ. 【2つの選択肢】に関して, まさにぼくの言いたい趣旨のことがコンパクトに書いてあった.
ついでに書けば, ニーヴン&パーネル『悪魔のハンマー』(早川SF文庫) にも【2つの選択肢】が出てくる. 少し長いが,宇宙飛行士リック・デランティの言葉を引用したい. 彗星が落下して破滅に瀕した地球で, 狂信者集団が残された発電所に襲いかかったときの檄だ:
「私は宇宙にいた。私はもう二度とあそこにいくことはないだろう。 だが、きみたちの子供はできる! 絶対できる!  あの発電所と20年という歳月をくれ。 そうすればわれわれはまた宇宙に出られる。 ・・・ よく考えてくれ。二つに一つだ。 このままいって、良い農民に、安全な農民に、迷信深い農民になるか− それとも、もう一度、征服すべきいろいろな世界を持つか。 もう一度、電光を支配するか。」