よりにもよって、何でまた、ぼくなんかに出演依頼が来たんだろう。
火星の専門家でもないのに、火星の話をして欲しいなんて、
うーん、プロデューサーの人が血迷ったとしか思えん。 それをまた、何が魔が差したか、引き受けてしまうなんて。 いくら頼まれたら断れない性格だからといっても、 うーん、プロデューサー以上に血迷っていたのはぼくらしい。 ともあれ、何がどう間違ったのか、 7月11日、夜10時50分から11時まで放映の、 NHK教育テレビ『視点・論点』に出演することになってしまった。 今年の夏の火星“超”大接近に向けて、火星の話題である。 以下はその顛末記である。
まぁ、もういまはすべて終わり、胃の痛みも取れたけど、
とにかく、6月中旬に出演依頼を受けた後は、ずーーと後悔しっぱなしで、
とくに直前の一週間は、後悔量が日々倍増した。
そして上京前の2日ほどは原稿の作成だ。 学会発表などでは、さすがに最近は慣れたというか横着になったというか、 講演原稿を作ったりすることはおろか発表練習さえしない。 しかし今回のものは、9分ほどで過不足なくしゃべらんとあかんし、 さすがに時間に合わせた読み原稿を作る必要があるだろうと思った。 実際、プロデューサーの人からは、 事前に、だいたい原稿用紙で7枚ぐらいですと言われていた。 またもちろん、原稿を棒読みもできんだろうし、 何度かは、読み練習が必要だろうとも思った。 ぼくとしては、大変な努力をしたもんである。 まぁ、読み原稿自体は、2日もかければ、十分推敲したものが作れるが、 原稿を推敲している間にも、だんだんと出演の実感が湧いてきて、 緊張はますます高まるばかりだ。 とりあえずは、もう現実逃避で、ゲーム『SILENT HILL 3』に没頭した。 しかしそれだけでは気分転換は足らず、プレッシャーに負けて、 上京当日の朝も、翌日の収録日の朝も、 ストレス性の下痢に見舞われる始末である。
前日の午後にフラフラの状態で京都を発ち、
東京へ向かう新幹線の中や、
NHKが取ってくれた放送センター前のホテルに入ってからも、
原稿の読み練習をしたが、実際、ホテルでは声に出して練習したけど、
ぜんぜん頭に入らない感じである。
時間の合間にしようと思って持参していた仕事も、
新幹線の中で済んでしまったし、
かといって、もっていった文庫本も読む気になれずに、
ホテルでは結局ボーッとテレビを見ていた。
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渋谷のNHK放送センター 本来なら、受付とか、スタジオとか、いろいろ撮るところだが、 もー、いっぱいいっぱいで、まったく余裕ナシ。 |
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前日に早く寝たので、8時には目が醒めてしまう。
でも、NHKへの出頭は昼頃で、それまですることないし、
原稿の読み練習を2回しただけで、後はボーッとテレビ見ていた。
でも、どんな番組だったか、まるで覚えていない。
出頭は12時の約束だったが、
ホテルは11時にチェックアウトだし、
まぁ、放送局の空気に慣れておこうかと思って、
11時にはホテルのすぐ前のNHKへ行く。
ほどなく迎えに来たディレクターの人に案内されて、
8Fの解説委員室というところへ連れて行かれた。
応接室みたいなところで、原稿を見せて、
どこでボードを出すとか、簡単に進行の打ち合わせをする。
このときに、ぼくもはじめて番組用に作成されたボードを見たのだが、
手書きの資料や参考コピーを送っただけだったにもかかわらず、
ここらへんはさすがというか、とても綺麗に作ってあった。
火星人の絵なんかは、タコ型火星人のラフななぐり書きを送っただけだが、
きちんと背景もついて出来上がっていた。
ただ、地球の軌道と火星の軌道を説明するボードで使う、
地球と火星を意味するマグネットが少し薄くて、
掴みにくいし落としそうだし、不安が横切る。
12時40分ぐらいにスタジオ入り。
まず最初にメイクだ。
10数年ぶりのメイクだけど、丁寧に塗ってくれたような気がする。
あまり意味がないけど髪まで梳いてくださった。
ところが、マイクテストの直前に、
原稿の冒頭にチェックが入ってしまう。
ちゅうのは、もともとの原稿では、
ぼくも火星の専門家ではないので、
エクスキューズとギャグを兼ねて、
“今年の夏は火星が超大接近するということで騒がれています。
ぼくは火星についてはそれほど詳しいわけじゃないので、
ここで話すのも少しアドベンチャーだなぁと思いますが、
でも、逆にいえば、みなさんと同じように、
火星にはごくふつーに思い入れがあります。
それは火星人そして宇宙人ですね。
でも、その前に、少し予習してきたことを話しましょう。”
なんていうフレーズがかましてあったのだ。
この“アドベンチャー”のあたりは、
少し変えてもらえませんか、というチェックが入った次第。
そして本番。
冒頭の部分は、
“今年の夏は火星が超大接近するということで騒がれています。
ぼくも天文学を仕事にしているので、
ときどき火星を見る機会はありますが(うそじゃない)、
今年はとくに明るく輝くということで、
ぼくもドキドキしています。
また同時に、おそらくみなさんも同じだと思いますが、
火星に対してはとくに思い入れがあります。
それはもちろん火星人ですね。その前に・・・”
てな感じに直したが、
実際、このときには、ドキドキどころのレベルじゃなくて、
まじで心臓がドクンドクン脈打っていた。
収録が終わり、ディレクターの人がOKを出したのも夢うつつである。
“何だか言い忘れた気がするんですが”
“え、そんな感じじゃなかったですよ、話はつながっていましたよ” とにもかくにも、これでいいのなら、とOKにしてもらった。 というか、撮りなおしなど、到底無理だ。 10分間でもてる気力体力をすべて使い果たしてしまった。 もう、胃はさっきからシクシクするし、ヘロヘロである。 これ以上は続かない状態だったので、一も二もなかった。
収録後はすぐに、調整室みたいなところで、
全体をリプレイして確認するのだが、
これもまた恥ずかしい。
顔から火が吹き出かけたところで、
メイクの人が化粧を落しに来てくれて、
何だか塗られて冷たくて気持ちよかった。
スタジオを出たのは1時40分ぐらいだったから、
地獄のような試練の時はちょうど1時間くらいだった!
はぁー、いくら血迷ったとしても、 もうこんなストレスのかかる仕事は受けないことにしよう。 ほんとに寿命が縮んだ気がする。
後日談: |
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テレビの画面:完全に目が泳いでいる(^^; |