国際教員研修NASE
Network for Astronomy School Education
@天王寺
(2019/11/09-10)

国際天文学連合IAUお墨付きの国際教員研修NASE (Network for Astronomy School Education)を、 11月9日(土)と10日(日)の2日間にわたり、 和歌山大学と大阪教育大学のメンバーが主催して、 天王寺キャンパスで実施した。 60人にも及ぶ受講者で賑わうとともに、 天文好きに限ったことかもしれないが、 日本の教育レベルは世界水準よりもかなり高いことが実感された。

講義もあるが、この研修は実習(ワークショップ)が中心。 んで、10あるテーマの内、ぼくが担当したのは、 T5「太陽黒点と太陽スペクトル・星のスペクトル」と T8「宇宙の膨張」。さてさてさーて、どんな実習だろう。

準備室&休憩室

道具がいっぱいの裏方。

受付

和歌山大学の学生さんたちが担当してくれた。

会場

オープニングは天王寺キャンパス西館のホールで。 参加者がちらほら集まり始めている。 うちのOBも何人も参加していたりする。

事前挨拶中

代表の富田さんが挨拶しているところ。 手前側はNASEのリーダーのロセさんとベアトリズさんたち。

T5「太陽黒点と太陽スペクトル・星のスペクトル」

T5「太陽黒点と太陽スペクトル・星のスペクトル」では、 太陽放射の話を少しした後で、太陽スペクトルの説明。 まずは、波長や振動数など波の性質から。 手前のテーブルに乗っている蛇腹バネで、 縦波と横波を表現するデモンストレーション。 地震国の日本は得意だ。 横波を上下方向に振るようにこだわってたけど、 水平方向でもいいじゃん、と心の突っ込み。
続けて、写真にあるのは、紐を使って、 振動数のデモンストレーション。 振動数を多くすると疲れる=エネルギーが高い、 え、それいいの、と心の突っ込み。

活動1:太陽スペクトルの偏光、 活動2:光の偏光

偏光板を使って、太陽光の偏光や、水面反射の偏光、 PC画面の偏光などを確認する実習。 ここらへんは、20年以上も前に『宇宙スペクトル博物館』で、 いろいろ撮影した内容。

活動3:太陽の構造

これは紙を切り貼りして太陽の構造の模式図を作成する実習だが、 さすがに易しすぎるのか、今回はなかった。

活動4:太陽の自転周期の測定

黒点の写った太陽の写真をもとに、 黒点の緯度における小円に黒点の位置を投影して、 中心角の移動量から自転を測定する実習。 これは幾何学的にできることなので、 小学生でもできるわかりやすい実習だと思う。 とくに心の突っ込みはなかった。


活動5:太陽光度の測定

これはキルヒホッフだかブンゼンだかが行った方法だそうだが、 ぼくがもっとも感心した実習。 舞台装置としては、ワット数のわかっている電球(たとえば400W)と、 いちおうワット数が未知の電球(これは太陽でも可)を用意する。 そしてそれぞれの電球(光源)からの照度が同じ位置がわかれば、 距離の測定から、未知の光源の明るさがわかるという寸法。 問題は照度をどう測るかだが、ここがすごいトリック。 ふつうの白紙に家庭用油を一滴たらして透明窓を作り、 白紙の位置をずらせて、片側から透明窓を覗く。 手前に来すぎていると向こうの光源からの照度が低く、 透明窓は暗くなる。 向こうに行きすぎていると向こうの光源からの照度が高く、 透明窓は明るくなる。 透明窓が周囲の白紙と区別が付かない位置が、 照度が等しい位置である。 いやぁ、何とエレガントな方法だと思った、これだけは舌を巻いた。

活動6:半透明

ロウソクの炎が光っているけど、 光を当てても影ができないという実習。 半透明の実演。

活動7:光の散乱

これはよくあるやつで、水に牛乳を垂らして光を当て、 レイリー散乱や夕焼けを再現する実習。

T8「宇宙の膨張」

T8「宇宙の膨張」は、宇宙の膨張から重力レンズまでやるが、 なかなか実習しにくいテーマだとは思う。 まず、赤方偏移やドップラー効果の説明から。

活動1:ドップラー効果

目覚まし時計をぶん回すわけだが、 かなり豪快。 結構あぶなくない!?とは、心の突っ込み。

活動2:光子の「引き伸ばし」

ここらへんも写真は撮っていないんだが、 宇宙膨張で光の波長が伸びるのを、 波状のケーブルで実演。 ソフトケーブルを持参したけど却下。 んでも、家庭用のセミリジッドケーブルなんて、 日本の家庭にはないよー ← 実習器具は“身の回りのモノ”を使用する方針なのだが、 発展途上国にはあっても、日本では入手できないモノが多かった。

活動3:ゴムバンドの宇宙

物差しに沿ってゴムバンドを伸ばし、 距離に比例して伸びることを確認する実習。

活動4:風船の宇宙

これも絵ではよくあるやつだが。 ゴム風船に液状の糊を塗りたくって、 銀河に見立てた発泡スチロールの破片をまぶし、膨らませる。 それぞれの銀河は動かないけど、銀河間の距離は拡がるでしょ、 っていう実演。 百均で買っていったゴム風船が役に立った。

活動5:ハッブル定数の計算

銀河を描いた膨張前の宇宙と膨張後の宇宙を重ねて、 距離の測定から“この宇宙のハッブル定数”を求める実習。

活動6:中心のない宇宙膨張

ランダムに点(銀河)を散りばめた“トランスペアレンシー”を、 100%と105%の2枚用意して、 “OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)”で投影し、 いろいろずらして、どこも中心になる=中心のないことを説明。 トランスペアレンシーもOHPも、日本の現場にはもうないよお。

活動7:宇宙背景放射

ブラウン管のテレビで、いわゆる“砂嵐”の10個の点のうち1つは、 宇宙背景放射だそうだが、ムリムリムリ、ないし。 これに限らず、20年ぐらい前のコンテンツをほとんど更新していないのが、 この講習の大きな欠点かと思う。



活動8:ワイングラスの足の部分の“重力レンズ”

これも20年ぐらい前から、うちの十八番だったりする。 綺麗に対数カーブで磨いた(蜂屋作)を持参して、 二重像やアインシュタインリング、アインシュタインクロスを再現。

活動9:グラスワインによる空間変形

ワイングラスに赤ワイン(色の着いた液)を満たして、 ペンライトで照らし、光がいろいろに曲がることを実習。

なかなか(すごく)ハードな2日間だったが、 たまにはいいでしょう。 これは2日目の記念撮影かな。