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よくある誤解
アンタレスは「火星に対抗する者」?

アンタレス (Antares) の名を持つさそり座α星は,見た目の色と明るさが火星に似ており,黄道12星座の星でもあることから天球面上でたびたび火星に接近し,対比されることがあります.火星はギリシア神話の戦神アレス (Ares) に結びつけられるため,アンタレスの名は「火星に対抗・敵対する者」の意味でアンチ・アレス (anti Ares) に由来するとの俗説がありますが,むしろ逆で「火星に比類する者」を意味するギリシア語 (Ant Ares) に由来します.この辺も参照.ちなみに英会話では Antares をアンタレスと日本語風に発音しても通じないため注意が必要です (これは多くの他の星や星座のスペルでも同様です).

このような昔から使われている星の名前 (シリウスやスピカなど,誰もが知っている星の名称) は「固有名」と呼ばれ,その多くはギリシャ語か10世紀末頃のアラビア語に由来しています.意外かもしれませんが,星の固有名は2016年までは単に慣習で使われていたにすぎませんでした.2015年に国際天文学連合が太陽系外惑星の名前を公募するキャンペーンを行い,惑星を持ついくつかの恒星の名前が決まりました.なのに昔から知られている有名処の恒星の固有名が定められていないのはおかしいとなり,2016年5月に国際天文学連合が初めて227個の恒星の固有名を正式に定めることになりました.2016年6月以降に承認された固有名は不定期に公表され,2018年8月の時点では336個の恒星の固有名が承認されています.下記はそれらの一例です.

バイエル名固有名固有名の由来
α And (アンドロメダ座α星) Alpheratz アルフェラッツ アラビア語で「馬」 (ペガスス座にもまたがって所属していたため)
α Aql (わし座α星) Altair アルタイル アラビア語で「飛翔する鷲」
α Boo (うしかい座α星) Arcturus アークトゥルス ギリシア語で「熊を護るもの」 (おおぐま座を追いかけるように見えるため)
α CMa (おおいぬ座α星) Sirius シリウス ギリシア語で「焼き焦がす・光り輝くもの」
α CMi (こいぬ座α星) Procyon プロキオン ギリシャ語で「犬に先立つもの」
α Cyg (はくちょう座α星) Deneb デネブ アラビア語でめんどりの「尾」
α Eri (エリダヌス座α星) Achernar アケルナル アラビア語で「河の果て」 (エリダヌス座の南端にあるため)
α Gem (ふたご座α星) Castor カストル ギリシア神話に登場する双子の兄カストル
β Gem (ふたご座β星) Pollux ポルックス ギリシア神話に登場する双子の弟ポリュデウケス
α Hya (うみへび座α星) Alphard アルファルド アラビア語で「孤独なもの」 (周囲に明るい星がないことから)
α Leo (しし座α星) Regulus レグルス ギリシャ語で「小国の王」
α Lyr (こと座α星) Vega ベガ アラビア語で「降下する鷲」
β Ori (オリオン座β星) Rigel リゲル アラビア語で「足」
α PsA (みなみのうお座α星) Fomalhaut フォーマルハウト アラビア語で「大魚の口」
α Sco (さそり座α星) Antares アンタレス ギリシャ語で「火星に比類するもの」
α Tau (おうし座α星) Aldebaran アルデバラン アラビア語で「後に続くもの」 (プレアデス星団を追いかけるように見えるため)
β UMa (おおぐま座β星) Merak メラク アラビア語で「熊の腰」
α Vir (おとめ座α星) Spica スピカ ギリシャ語で穀物の「穂先」

松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)