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アーサー・エディントン (Arthur Eddington) は,1919年5月29日の皆既日食の際に,おうし座の方向の太陽とその周囲の星々を撮影しました. 通常,昼間に星は写りませんが,皆既日食の間だけは空が暗くなるため撮影できます. そして別の日の夜に撮影した同じ星野の写真と比較することで, 星々の位置のずれから太陽の重力場が周囲の空間を曲げていることを観測的に確かめました. これは,重力とは時空の曲りの帰結であるとするアインシュタンの一般相対性理論の最初の検証例となったことは有名です.
ですが,その観測結果をまとめた論文に掲載された皆既日食の写真は,エディントン本人が観測地として訪れたアフリカ大陸西沖のプリンシペ島で撮影されたものではありません. グリニッジ天文台がブラジルのソブラルへ派遣した別の観測隊が撮影したものです. プリンシペ島は当日,あまり天気が良くなかったようです.
なお当時は第一次世界大戦が終結した直後で,この研究成果は対戦国であったドイツ (アインシュタイン) とイギリス (エディントン) の協調という意味合いがあったため, 一般世間でも終戦の象徴として反響を呼んだそうです.
松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)
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