95A1.JXW 1994 1014, 1213, 1223
95A1POST 1995 0129
95宇宙誌 1995 0326, 0425
       0617
            宇宙地球誌における天文学
 
福江 純,赤石和幸,石井和彦,奥埜良信,小西啓之,山口 弘,山下 晃,横尾武夫
<大阪教育大学 〒582 柏原市旭ケ丘4−698−1>
e-mail:fukue@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
 
 
 
 
 
 

 大学週休2日制への移行に伴う大幅なカリキュラム変更の結果,「宇宙と地球のダイナミックな歴
史(宇宙地球誌)」を物語る講義が出現した.<宇宙地球誌>を,関係スタッフ各人がリレー式に数
話ずつ語ることとし,各回が読み切りでありながら,全体を通してみるとひとつのストーリーになっ
ているような講義を目指した.初年度(1994年度)の実践結果と,今後の問題点について紹介する.
 
 
 
 
1.週休2日制の余波
 大学週休2日制の波が遅ればせながら地方大学(うち)にも押し寄せ,その結果,カリキュラムの圧縮やセメスター移行など,かなり大幅にカリキュラムを変更した.数年前から議論を重ねた新カリキュラムは,1994年度の1回生から実施している.カリキュラム変更に合わせて,地学関係のカリキュラムも見直しを迫られ,他の条件も重なった結果,関係教官が参加して「宇宙と地球のダイナミックな歴史」をリレー式に物語る講義が出現した(天文学に関係したカリキュラムについては福江1994a参照).科目名:『地学U−宇宙と地球の物語』,対象回生:1回生(中学校課程)および2回生(小学校課程),扱い:準必修.
 昨今の“理科系離れ”なども横目で睨みながら,スタッフオールキャストで魅力的な講義を組む,というのが当初の目的であった.そのために,宇宙が生まれてから,太陽系や地球の誕生,大陸や海洋の形成,水に恵まれた現在の地球,自然界のゆらぎ,生命の発生,環境問題・資源問題,地球の未来にいたるまで,<宇宙と地球のダイナミックな歴史>を,スタッフ各人がリレー式に数話ずつ語る予定で,各回が読み切りでありながら,全体を通してみるとひとつのストーリーになっているような講義を目指した.なお宇宙地球誌を語る上では生命の発生もかかせない要素なので,実施にあたっては,生物の先生にも助っ人を頼んだ.
 紙数の関係もあり,各回の具体的な講義内容や講義資料などは省略するが,このような形式の講義がどのような受け取られ方をしたか,という点について,次節で簡単に述べておきたい.
 
2.実践結果
 講義の効果を見たり,以後への参考にするため,最終回で,講義に対する意見を尋ねた.自由に述べてもらうために無記名アンケートとした.
 アンケートで尋ねた内容は:@面白かった話,Best3(まで),A面白くなかった話,Best3(まで),Bこんな話が聞きたかったリクエスト(いくつか),C講義の形態や内容その他,なんでも感想,D100点満点で何点? である.
 @面白かった話&A面白くなかった話
 面白かった:タ イ ト ル:面白くなかった
  男+女           男+女  
  7+2   自然の階層構造 4+4
  9+2   銀河と星の形成 2+3
  8+5   大地 は 動く 12+6
  10+8  地球 の 歴史 3+1
  11+7  気 象 全 般 13+7
  0+2   大 気 構 造 3+2
  2+3   地球の放射平衡 2+0
  7+6   人類 の 誕生 4+3
  0+2   化石+地層の話 1+1
  30+18 宝 石 の 話 2+1
  2+2   鉱     物 5+3
  6+1   ガイア& SETI 1+0
 Bこんな話が聞きたかった
(注:天文関係以外は紙数の関係で省略)
・宇宙の話で堅苦しくないもの×4
・宇宙人についてもう少し突っ込んだ話×3
・ビッグバンやアインシュタインのエピソード
・ブラックホールを利用したタイムスリップ,エネルギーを取り出す方法,重力レンズ
・ブラックホールの話×2
・星座,星の伝説×7
・星雲の話
・ダークマターについて突っ込んだ話
・太陽系の各惑星についての話×2
・月の中身
・潮の満ち引き
・スペースコロニーの話
・私はいつ宇宙へ行けるのか,またどのくらいお金がかかるのか
・先生の裏話
・それぞれの研究分野が生活とどのようにかみ合っているか
・他の授業ではあまり聴くことができないような内容.最後のガイア仮説のような,多少科学からはなれていても面白いと思う.
 C講義の形態や内容その他,なんでも感想
(注:代表的な意見をセレクションした)
・話が少しバラバラであったのは最初だから仕方なかったことだと思うけど,全体的にはおもしろい企画で良かったと思います.
・地学は,他の理科の学科に比べても,すごく幅がある学科だと思うので,すごくいろいろな面がみれて,高校で地学をとっていなかった僕にも,地学がなんとなくわかった.
・こういう感じの講義は他にはないので,新鮮に感じてよかった.だけど,もう少ししぼって,講義をしてほしかった.
・高校では地学を学ばなかった.私と同じ人は多いと思う.いろいろな物に対する価値観が少しずつ変わったと感じる.もっと多くの人,いや全員が高校で学べばいいのに,と思った.
・地学を大きな視野からみるというこの授業は,私が大学で勉強したかった内容なのでとても興味深くきけました.ただ,先生によって話が独立していることがあって残念でした.
・生物の先生が行う地学の講義はおもしろかった.今度は理科教育の先生や化学の先生達もゲストに招いてほしい.きっと面白い授業になると思います.
・本日のキーワードがよかった
・いろいろな先生のいろいろな話が聞けて面白いと思う.地学だけでなく,他の物理,化学,生物でも,この様な講義があっても良いと思う.
 
3.今後の課題
 ものの順序として,ここで,まとめや今後の課題となるわけだが,講義をした側からの感想を少し書いておきたい.
 まず初回の「自然の階層構造」:このときは,実は,あまりの手応えのなさに,話している途中で泣きそうになってきた.まぁ,話が巧くなかったのが第一の原因だろうが,学生にとって日常とかけ離れた概念で,観念的・抽象的すぎたのもあるかもしれない.さらには,このときのキーワード<ここはどこ,わたしはだれ>という問いに対して,ぼく自身がその問いの答えを持っていないため迫力がなかったことが,一番の敗着だろう.
 「ガイア」:確立した科学だけでなく,科学の境界領域の話題(天文学に関係したものとしては,たとえば,UFO/宇宙人,占星術,月の魔力,などなど)も少しは混ぜたい.いろいろな立場からものごとを考えることにより,疑似科学に対する批判的な目を養うことにもなる.なにより,こっちも楽しいし,学生の関心も高い.
 で,今後の課題だが,まず,当然だが,内容に関しては,しっかり吟味/精選し,更新していかなければならない.またこのような講義形態のデメリット−首尾一貫性がなくなる−をクリアするために,担当の間でできるだけきめ細かな調整も必要だろう.
 後は,一般的な話でもあるが,“馴れ”と“道具”と“気迫”かな.5年10年と経験を積めば誰でも“馴れ”てある程度の講義はできるようになる(それでできない人はやめた方がいい).が,工夫次第ではさらに質の高い講義にもなろう.VTRやコンピュータなどの“道具”もどんどん使用したい(福江1994b,1995).さらに,自分が面白いと思うことを話せば,“気迫”が出るし,聞く方も面白いと思ってくれる(これは研究も同じか).
   ・・・
 いろいろな現場で天文教育を実施している方々にとって,本稿が何らかの参考になれば幸いである.また,同じような目的・形態の講義をすでに実施されているところも多いと思うが,併せて,ご批判やご教示を願いたい.
   ・・・
 本稿は,先日,小金井市で開催された1995年度日本天文学会春季年会でのポスター発表用原稿をもとにしたものです.学会会場で有益なコメントや励ましをいただいた長谷川哲夫氏に感謝します.なお学会発表時は『宇宙地球史』としていましたが,長谷川氏の意見を考慮して,本稿では『宇宙地球誌』としてみました.またその訳語については,宇宙誌にはCosmography を,地球誌にはTerragraphy を当てました(Geography はすでに地理学・地誌という意味があるし,Earthgraphy はピタッとこないので…英文がつくようになって,造語には結構気をつかう).
 
         参考文献
 
福江 純,1994a,天文月報,87,496
福江 純,1994b,パリティ,9,No.8,55
福江 純,1995,パリティ,10,No.3,73
 
Astronomy in Cosmography and Terragraphy
 
Jun FUKUE, Kazuyuki AKAISHI, Kazuhiko ISHII, Yoshinobu OKUNO, Hiroyuki KONISHI, Hiroshi YAMAGUCHI, Akira YAMASHITA, Takeo YOKOO
 
Osaka Kyoiku University, Kashiwara, Osaka 543
 
Abstract: The new lecture, where all the staffs tell stories of the dynamic universe and the Earth (Cosmography and Terragraphy), did start in the 1994 fiscal year. We here introduce and discuss the contents and results of the lecture of the first cycle.
95A1.JXW 1994 1014, 1213, 1223
95A1POST 1995 0129
95宇宙誌 1995 0326, 0425
            宇宙地球誌における天文学
 
福江 純,赤石和幸,石井和彦,奥埜良信,小西啓之,山口 弘,山下 晃,横尾武夫
<大阪教育大学 〒582 柏原市旭ケ丘4−698−1>
e-mail:fukue@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
 

 大学週休2日制への移行に伴う大幅なカリキュラム変更の結果,「宇宙と地球のダイナミックな歴
史(宇宙地球誌)」を物語る講義が出現した.<宇宙地球誌>を,関係スタッフ各人がリレー式に数
話ずつ語ることとし,各回が読み切りでありながら,全体を通してみるとひとつのストーリーになっ
ているような講義を目指した.初年度(1994年度)の講義の具体的内容,実践結果と効果,今後
の問題点・反省点などについて紹介する.
 
 
1.週休2日制の余波
                    
 大学週休2日制の波が遅ればせながら地方大学にも押し寄せ,その結果,カリキュラムの圧縮やセメスター移行など,かなり大幅にカリキュラムを変更した.数年前から議論を重ねた新カリキュラムは,今年度(1994年度)の1回生から実施している(幸か不幸か地学関係の教務委員をしているため,カリキュラム変更にかなり深く関わることができたのだが,カリキュラム変更は,話に聞いていた以上にシンドイ作業である.いい勉強になったが,委員長でなくてよかった^_^;).カリキュラム変更に併せて,地学関係のカリキュラムも見直しを迫られ,他の条件も重なった結果,(生物の先生も巻き込み)関係教官が参加して「宇宙と地球のダイナミックな歴史」をリレー式に物語る講義が出現した(天文学に関係したカリキュラムについては福江1994a参照).
  授業科目   地学U
  講義題目   宇宙と地球の物語
  対象回生   中学校課程は1回生後期;
         小学校課程は2回生後期
         (いずれも半期)
  必修・選択  形式的には選択だが,
         実質的には必修扱い
  人数     70人強
 昨今の“理科系離れ”なども横目で睨みながら,スタッフオールキャストで魅力的な講義を組む,というのが当初の目的であった.そのために,宇宙が生まれてから,太陽系や地球の誕生,大陸や海洋の形成,水に恵まれた現在の地球,自然界のゆらぎ,生命の発生,環境問題・資源問題,地球の未来にいたるまで,<宇宙と地球のダイナミックな歴史>を,スタッフ各人がリレー式に数話ずつ語る予定で,各回が読み切りでありながら,全体を通してみるとひとつのストーリーになっているような講義を目指した.
 本稿では,初年度(1994年度)の計画(2節),講義の具体的内容(3節),実践結果と効果(4節),今後の問題点・反省点(5節)などについて紹介する.
 
2.実施計画と講義概要
 
 まず,当初,どのような講義を目指したかを示すため,1節と重なる部分もあるが,講義概要(学生向けの冊子)に載せた文章を紹介する(表1).
 なお宇宙地球誌を語る上では生命の発生もかかせない要素であるので,実施にあたっては,分野の壁を越え,生物の先生にも助っ人を頼んだ.
 
3.実施例(講義資料の例)
 
 講義時に配った資料プリントを以下にいくつか示す(図1).コピーで見にくいが雰囲気を掴んでいただければ幸いである.プリント以外にも,実物やVTRなども利用した.
 
4.結果アンケート
 
 このような形式の講義の効果を見たり,以後への参考にするため,最終回に,この講義に対する意見を尋ねた.自由に述べてもらうために無記名アンケートとした.
 アンケートで尋ねた内容は:
@面白かった話,Best3(まで)
A面白くなかった話,Best3(まで)
Bこんな話が聞きたかったリクエスト(いくつか)
C講義の形態や内容その他,なんでも感想
D100点満点で何点?
である.
 
@面白かった話,Best3(まで)&A面白くなかった話,Best3(まで)の集計結果
 
面白かった:タ イ ト ル:面白くなかった
男+女           男+女  
7+2   自然の階層構造 4+4
9+2   銀河と星の形成 2+3
8+5   大地 は 動く 12+6
10+8  地球 の 歴史 3+1
11+7  気 象 全 般 13+7
0+2   大 気 構 造 3+2
2+3   地球の放射平衡 2+0
7+6   人類 の 誕生 4+3
0+2   化石+地層の話 1+1
30+18 宝 石 の 話 2+1
2+2   鉱     物 5+3
6+1   ガイア& SETI 1+0
 
Bこんな話が聞きたかったリクエスト(いくつか)の集計結果(×印は同意見の人数を表す)
 
・宇宙の話
・宇宙の話で堅苦しくないもの×4
・宇宙人・SETIについてもう少し突っ込んだ話×3
・ビッグバンやアインシュタインのエピソード
・ブラックホールを利用したタイムスリップ,エネルギーを取り出す方法,重力レンズ
・ブラックホールの話×2
・星座,星の伝説×7(結構多いのだが・・・)
・星雲の話
・ダークマターについて突っ込んだ話
・太陽系の各惑星についての話×2
・月の中身
・潮の満ち引き
 
・天気(カミナリ,タツマキ)などのメカニズムの話
・気象の予測法
・気象予報士に関して
・天気予報における信用度
・天気予報×5
・天気予報の見方
・もう少し突っ込んだ気象の話×2
 
・地震の話×10
・阪神大震災(兵庫県南部地震)について地学的な話×7
・北海道南西沖地震
・地震が起こる原理について(プレート型の地震と活断層型の地震)×2
・地震の予測法
・地震のときの対処法×2
(「地震」:1/17の後に最終回があったため,当然というか,地震に関する話の希望がすごく多かった.)
 
・地層の話
・構造地質の話
・古生物の話
・地震や火山など地球の活動の話
・宝石のもっと突っ込んだ話
 
・もっと専門的な話にして欲しかった.
 
・環境問題に関わりのある地球の話
・環境汚染について
・環境問題
 
・スペースコロニーの話
・私はいつ宇宙へ行けるのか,またどのくらいお金がかかるのか
 
・先生の裏話
・それぞれの研究分野が生活とどのようにかみ合っているか.(こいつはムズいかもしれない)
・他の授業ではあまり聴くことができないような内容.最後のガイア仮説のような,多少科学からはなれていても面白いと思う.
 
C講義の形態や内容その他,なんでも感想の集計結果(アトランダムに)
 
・このような形式の講義はいろいろな分野の話が聞けたのでよかったと思う.
・毎回楽しかったのでよかった.
・話の内容が重なったりしていたので,そこの所はちゃんと考えてやって欲しい.
・地学は,他の理科の学科に比べても,すごく幅がある学科だと思うので,すごくいろいろな面がみれて,高校で地学をとっていなかった僕にも,地学がなんとなくわかった.
・先生が何人も変わってよくわからなかった.
 
・少し重複するのが嫌だったが,いろんな話が聞けておもしろかったです.
・いろいろ先生が変わったので,分かりやすい先生や分かりにくい先生もいたが,様々な分野の話が聞けてよかった.
・やはり,先生が毎週変わるのはやりづらかった.でも,毎週のように小テストもあるし,スライドやビデオを見せてもらったりして,集中して話を聞けた.
・話が少しバラバラであったのは最初だから仕方なかったことだと思うけど,全体的にはおもしろい企画で良かったと思います.
・OHP見にくかったです.
 
・小テスト もうちょっと時間ほしかったな.
・先生がコロコロ変わってやりにくかった.
・こういう感じの講義は他にはないので,新鮮に感じてよかった.だけど,もう少ししぼって,講義をしてほしかった.
・全般的に面白かった.
・それぞれ面白かったけど,2回ぐらいしかないのに少し量が多かったと思う.興味を持つけど,その授業の最後らへんはわからなくなってつまらなくなってしまっていた.
 
・先生がいつも変わってよかった.
・話の進度が速いので,もう少しゆっくりと進めてほしかった.興味はあるが内容理解が難しかった.
・高校では地学を学ばなかった.私と同じ人は多いと思う.いろいろな物に対する価値観が少しずつ変わったと感じる.もっと多くの人,いや全員が高校で学べばいいのに,と思った.
・講義がどれも短かったため,いろいろな視点から地学がみられたのは おもしろかったのですが あっという間におわってしまって もっと くわしくききたいこともありました.
・気象の授業など身近なテーマで,半分知っていて半分知らないことなどを学習する時はわかりやすかった.
 
・地学を大きな視野からみるというこの授業は,私が大学で勉強したかった内容なのでとても興味深くきけました.ただ,先生によって話が独立していることがあって残念でした.
・宇宙人・SETIについてもう少し突っ込んだ話×2
・映像や実物を用いていて,非常に興味をもって授業に集中できました.
・いろいろ授業の内容が変わりバラエティーにとんでいてよかった.
・せっかくだからビデオを使った講義をもっと増やして欲しい.
 
・生物の先生が行う地学の講義はおもしろかった.今度は理科教育の先生や化学の先生達もゲストにまねいてほしい.きっと面白い授業になると思います.
・本日のキーワードがよかった
・いろいろな先生のいろいろな話が聞けて面白いと思う.地学だけでなく,他の物理,化学,生物でも,この様な講義があっても良いと思う.
 
5.今後の課題
 
 ものの順序として,ここで,まとめや今後の課題となるわけだが,講義をした側からの感想を少し書いておきたい.
 まず初回の「自然の階層構造」:このときは,実は,あまりの手応えのなさに,話している途中で泣きそうになってきた.まぁ,話が巧くなかったのが第一の原因だろうが,学生にとって日常とかけ離れた概念で,観念的・抽象的すぎたのもあるかもしれない.さらには,このときのキーワード<ここはどこ,わたしはだれ>という問いに対して,ぼく自身がその問いの答えを持っていないため迫力がなかったことが,一番の敗着だろう.
 「プレートテクトニクス」:これは本来はもっと興味を引く対象だと思ったのだが,話す側の講義経験が浅かったため,内容が詰め込み過ぎになってしまった.また十分こなれていなかったようだ.ただし大陸移動などのビデオに対する反応はよかった.
 「気象」:もうちょっと身近で具体的な話をした方がよかったかもしれない.
 「人類」:本人は不思議がっておられたが,学生の人気はよかった.内容とともに講義経験も大きく寄与したのだろう.
 「宝石」:ダントツの人気だった.やはり講義経験による部分も大きいのだろう.
 「ガイア」:確立した科学だけでなく,科学の境界領域の話題(天文学に関係したものとしては,たとえば,UFO/宇宙人,占星術,月の魔力,などなど)も少しは混ぜたい.いろいろな立場からものごとを考えることにより,疑似科学に対する批判的な目を養うことにもなる.なにより,こっちも楽しいし,学生の関心も高い.
 
 で,今後の課題だが,まず,当然だが,内容に関しては,しっかり吟味/精選し,更新していかなければならない.またこのような講義形態のデメリット−首尾一貫性がなくなる−をクリアするために,担当の間でできるだけきめ細かな調整も必要だろう.
 後は,一般的な話でもあるが,“馴れ”と“道具”と“気迫”かな.5年10年と経験を積めば誰でも“馴れ”てある程度の講義はできるようになる(それでできない人はやめた方がいい).が,工夫次第ではさらに質の高い講義にもなろう.VTRやコンピュータなどの“道具”もどんどん使用したい(福江1994b,1995).さらに,自分が面白いと思うことを話せば,“気迫”が出るし,聞く方も面白いと思ってくれる(これは研究も同じか).
   ・・・
 いろいろな現場で天文教育を実施している方々にとって,本稿が何らかの参考になれば幸いである.また,同じような目的・形態の講義をすでに実施されているところも多いと思うが,併せて,ご批判やご教示を願いたい(→fukue@cc.osaka-kyoiku.ac.jp).
   ・・・
 本稿は,先日,小金井市で開催された1995年度日本天文学会春季年会でのポスター発表用原稿をもとにしたものです.
 学会会場で有益なコメントや励ましをいただいた長谷川哲夫氏に感謝します.なお学会発表時は『宇宙地球史』としていましたが,長谷川氏の意見を考慮して,本稿では『宇宙地球誌』としてみました.またその訳語については,宇宙誌にはCosmography を,地球誌にはTerragraphy を当てました(Geography はすでに地理学・地誌という意味があるし,Earthgraphy はピタッとこないので…英文がつくようになって,造語には結構気をつかう).
 
         参考文献
 
福江 純,1994a,天文月報,87,496
福江 純,1994b,パリティ,9,No.8,55
福江 純,1995,パリティ,10,No.3,73
 
Astronomy in Cosmography and Terragraphy
 
Jun FUKUE, Kazuyuki AKAISHI, Kazuhiko ISHII, Yoshinobu OKUNO, Hiroyuki KONISHI, Hiroshi YAMAGUCHI, Akira YAMASHITA, Takeo YOKOO
 
Osaka Kyoiku University, Kashiwara, Osaka 543
 
Abstract: The new lecture, where all the
staffs tell stories of the dynamic universe
and the Earth (Cosmography and Terragraphy),
did start in the 1994 fiscal year.
We here introduce and discuss the contents
and results of the lecture
of the first cycle.
 
 
 
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図のタイトル
 
図1 配布プリントの例
 
           表1 1994年度の講義概要に掲載した学生向け紹介文

 授業科目名  地学U          講義題目   宇宙と地球の物語
 担当教官名  福江 純 他       開講区分   専攻科目
 開講対象   中理1回生,小理2回生  開講期     後期  金曜日 2時限
 
     講義概要(授業の目的・内容)
 
カリキュラム改正に伴い,地学のスタッフがオールキャストで従来にないタイプの講義に取り組むことにした.すなわち,宇宙が生まれてから,太陽系や地球の誕生,大陸や海洋の形成,水に恵まれた現在の地球,環境問題・資源問題,地球の未来まで,<宇宙と地球のダイナミックな歴史>を,スタッフ各人が数話ずつ語る予定である.各回が読み切りでありながら,全体を通してみるとひとつのストーリーになっているという,ユニークで魅力的な講義にしたいと考えている.
 
     授業計画
 
宇宙は無から生まれた−宇宙のはじまりと銀河の形成
われら星の子−星の誕生と進化&太陽系の形成と地球の誕生
大陸は移動する−プレートテクトニクスからプリュームテクトニクスへ
山を造る/日本は沈没するか−地震の原因,発生,そして予知
イオと2011年宇宙の旅−マグマの形成と火山活動
ダイヤモンドを作る法−宝石とサッカーボールC60
宇宙からの使者−地球と太陽系の年齢−隕石と隕鉄
ゆらぐ自然界−自発的対称性の破れと結晶構造の発生
自己複製するシステム−生命の発生と遺伝子DNA
ニューラル・ネットワーク−古生物の進化
ジュラシック・パーク−恐竜の繁栄と絶滅,化石戦争
ガイア仮説−海洋と大気の形成と変遷
カオスとバタフライ効果−気候の発現
水惑星 その名は地球−水の大循環
地球の温暖化とオゾンホール−現在の地球のかかえる諸問題
金(きん)を集める方法−地球の限りある資源
地球と宇宙の未来−仮想現実,宇宙への進出,宇宙の将来
フリーディスカッション
などのテーマを考えている.
 
     講義の方法・評価方法等
 
各回に人替わりで講義を行う.成績の評価は,演習課題の提出・フリーディスカッション・レポートなどで行う予定.
 
テキスト なし
 
参考文献 なし