会議の概要 1.はじめに 2002年7月2日(火)から5日(金)にかけて、東京一ツ橋の学術総合センター(図1)内、一橋記念講堂で、国際天文学連合(IAU)第8回アジア太平洋地域大会(The IAU 8th Asian-Pacific Regional Meeting)が開かれた。国際天文学連合に関連した国際会議は、1997年のIAU京都総会をはじめとして、数年に一度は日本で開催されるし、他の国際会議も頻繁に開かれているが、国際会議は研究者向けという意識があるのか、本誌ではほとんど紹介されたことがないようだ。しかし、最近の国際会議では、天文教育が議題に上ることも少なくないし、今回の大会でも、天文教育専門の分科会がかなり大掛かりな形でもたれている。そこで、締め切りまでは間がなかったが、大会直後の9月号で特集を行うことにした。まず本稿では、IAU全般の紹介と今回の大会の特色について、簡単に説明したい。
2.国際天文学連合について 国際天文学連合(International Astronomical Union/Union Astronomique Internationale:IAU)は、世界中の天文学研究者によって組織された団体である。設立は1919年で本部はパリにあり、宇宙の距離や時刻の約束、小惑星の命名など、天文学にかかわるさまざまな約束事を決めている。1922年に現行88星座の境界を定めたのもIAUだ。国際天文学連合IAUについて、詳しくはHP(http://www.iau.org/)を見て欲しい。 天文学の博士号をもっていて、かつプロの研究者として活動している、というのが会員の資格だが、研究者だけで閉じた組織ではなくて、アマチュア団体との連携も積極的に行われている。実際、会員である特典はたいしてなくて、会費不要で、ときどきIAU情報誌 Information Bulletin を送ってくるぐらいだ。IAUが開催する会議の参加費割引があるわけでもなく、逆にいえば、会員以外でも参加費さえ払えば、IAU主催の国際会議にはビシバシ参加できる。今回開催されたアジア太平洋地域会議でも、非会員の参加者の方が多かっただろう。ちなみに、現在の会員は8000人強で、参加国は70カ国ぐらいだ。 科学的な活動と教育普及を実行するために、IAUには、大きく11の科学部門(Scientific Divisions)と、40強の分科会(Commisions;委員会と訳されることも多いだろうが、ここでは分科会と訳しておく)が設けられている。
科学部門は以下のとおりだ。 分科会(Commision)は数が多いので省略するが、Commission 4: Ephemerides から、Commission 51: Bioastronomy: Search for Extraterrestrial Life まで、40強の分科会が活動している(IAUのようなきちんとした組織になると、役割を果たした分科会は解散するので、分科会の通し番号には抜けがある)。このうち、天文教育にもっとも関連が深いのは、Commision 46: Astronomy Education and Development である。 IAU Information Bulletin の2001年6月号に掲載されている統計では、総会員8594人のうち、多い順に、アメリカ合衆国2300人、フランス643人、イギリス562人、日本471人、ドイツ455人で、日本はそう悪くないように見える。しかし、国別の人口比では、日本はアメリカの半分以下で、他の先進諸国と比べても非常に落ちるだろう。また女性会員の統計も出ていて、全体では女性会員は1041人/8594人=12.1%だが、日本は…笑っちゃう状態で、ほんの3.2%にすぎない。ただ、アメリカもいばれたものではなく、女性会員は9.7%である。フランスはさすがに高くて26.3%だ。もっとも、上には上があり、中には女性会員が100%の国もある。ただし、会員数自体も1人だが(^^; IAUは天文学全般にわたってさまざまな活動を行っているが、その中心は、長期的な計画を定める総会(General Assembly)、さまざまな分野の最前線について討論するシンポジウム(IAU Symposium)やコロキウム(IAU Colloquium)、そして世界各地域の天文学活動を中心とした地域会議(Regional Meeting)などの国際会議、教育普及、出版活動、命名や策定、などである。ちなみに、1997年に日本で初めて行われた総会、京都で行われた第23回総会については、ぼくのHP(http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~fukue)を参照して欲しい。 3.今回の会議について 今回開かれた第8回アジア太平洋地域大会は、世界各地での天文学振興を目的として開催される地域大会の一つである。今回の会議の目標として掲げられたものは、具体的に、(1)最新の研究成果の発表、(2)アジア太平洋地域での研究交流や研究協力の促進、(3)若手研究者活動の奨励と次世代の研究者の育成、(4)研究活動と天文普及を促進する方法の議論、となっている。 天文教育普及も大きな目標の一つに挙げられていて、専門分野の分科会と共に、天文教育に関する分科会も開かれた。そのため、うち(大阪教育大学)からも、天文学の研究発表以外にも、天文教育の発表も行うことができたのは幸いであった。研究者のコミュニティでも、教育や普及が重視し始められていることの現れである。 詳しくは、それぞれのレポーターによって報告されるが、4日間の会期中に下記のような多数の分科会が行われた。
○Plenary Sessions (PL)(総合セッション)
○Parallel Sessions (PS)(並列セッション)
○Business Sessions (BS) 発表は、口頭発表とポスター発表にわかれていて、口頭発表の場合は、発表者は各セッションの会場で決められた時間内で最新の成果を報告する。今回は質疑応答を含め、招待講演者はだいたい30分で、他の講演者は15分だったが、おおむねきちんと時間内に発表する。パソコンと液晶プロジェクタを利用した発表もかなり多い。幸か不幸か、トークは英語である(図2、図3)。
ポスター発表では、展示室に置かれた畳一枚(90cm×180cm)程度の大きさのボードに、発表内容を印刷した紙を貼り付けて、参加者に見てもらい議論したりする。これももちろん英語だが、口頭よりは楽である(図4、図5)。うち(大阪教育大学)の関連でも、研究・教育合わせて7件の発表をしたが、すべてポスター発表で行った。 なお、発表前には、会議時点で配られる予稿集に掲載するために、A4半分程度の簡単な内容説明を提出し、会議後には、集録に掲載するために、A4で2頁程度の論文を提出することになっている。
4日間の会期中、毎日、朝の9時半から夜の18時半ぐらいまで会議が開かれているのだが、一日中やっているわけじゃなくて、2時間程度のたっぷりとしたランチタイムが設けられているし、午後にはコーヒーブレイクもある(図4)。朝ゆっくり出てきたり、適当に時間を見繕って、東京見物をする参加者もいたようだ。
学会でも国際会議でも同じだが、昼間のセッションと同じくらい重要なのが夜のセッションである。すなわち、毎晩毎夜、いろいろな人たちと呑みかつ語らって、旧交を温めたり親交を深めたりする。また今回は、会議3日目の夜に、立食形式でバンケット(晩餐会)があったが、国際会議のバンケットは学会の懇親会より格段に美味しくリッチなことが多い。今回もいいオサケと料理が出たので、事前に学生に“バンケットは期待できるはずだから”と言っておいたのがウソにならずにすんだ(図7、図8、図9、図10)。 ちなみに、今回の会議の参加費は(早期割引で)1万円だったが、会議登録・予稿集・バンケット・コーヒーブレイク・集録費などなど全部含んでいることを思うと、この種の国際会議では格安な方だったと言える。
4.おわりに 今回のレポートでは、会議の内容の報告と共に、この機会を捉えて、有名人を撮ろう・写ろう企画も意図した。ここでも2枚ほど出しておこう(図11、図12)。
会議のレポートという責務もあったので、いつもより気合を入れて熱心に聴いたのだが(笑)、おかげで4日間、非常に密度の高い時間を過ごすことができた。 |
(コンパクト天体と高エネルギー天文学) 1.分科会概要 PS3分科会では、中性子星やブラックホールから活動銀河やガンマ線バーストまで、非常にエネルギーの高い天体現象に関して、11の口頭発表と31のポスター発表が行われた(図1)。
口頭発表のテーマは以下のようなものだった(ポスター発表は省略する)。 2.トピックス 全部について紹介する余裕はないので、いくつかピックアップして紹介したい。 京都大学の松本浩典さんの発表(Peculiar Characteristics of the Hyperluminous X-ray Source M82 X-1 )は、彼らのグループがX線観測によって、M82銀河の中心で発見した中間質量ブラックホール(M82 X-1)に関連する話だ(『天文教育』5月号の天文学最前線参照)。 ブラックホール降着円盤のように重力エネルギーの解放によって輝いている天体では、その明るさは、中心天体の限界光度であるエディントン光度が一つの上限目安になる。ブラックホール降着円盤を含むX線星の場合、10太陽質量のブラックホールのエディントン光度10^39erg/sが上限目安だ。そして、それより明るい、10^39-10^40erg/sという超エディントン光度で光っているX線星を、超光度X線源ULXs(Ultra Luminous X-ray Sources)と呼んでいる。また、もっと明るい、10^40-10^41erg/sのものを、極光度X線源HLXs(Hyper Luminous X-ray Sources)と呼ぶ。M82 X-1の光度は、10^41erg/sもあるので、HLXsの一種だ。もし質量が太陽の10倍程度なら、エディントン光度の100倍以上というとんでもないことになるが、逆にエディントン光度以下であるためにも、M82 X-1は太陽の1000倍程度の質量をもつ中間質量ブラックホールだと考えられているわけだ。 ところで、スペクトル解析からは、ULXsとHLXsとは振る舞いが少し異なるらしい。M82 X-1は、標準降着円盤にしては温度が高すぎてフィッティングができないし、スリムモデルと呼ばれるモデルでも、そのままフィットすると質量が変動してしまうという変なことになるのだ。ようするに、現在のモデルでは、M83 X-1をきちんと説明できないのである。松本さんは、何か見落としがあるはずだから、今後の研究で調べていきたいとのことだった(図2、図3)。
金沢大学の村上さんの発表(The Most Recent Results in Gamma-Ray Burst Observations)は、ガンマ線バーストに関する総合的な話だった。ガンマ線バーストというのは、非常にエネルギーの高いガンマ線領域で、20秒程度の激しい増光現象が観測されるもので、その正体がまだよくわかっていない。というか、そもそも宇宙の何処で起こっているかさえ不明だったのだが、1997年になって、ガンマ線バーストが、より波長の長い、X線・可視光・電波などの領域で残光を伴っていることが発見された。そしてこれらの残光の観測によって、大部分のガンマ線バーストは、銀河系内の現象ではなくて、100億光年も彼方の現象であることがはっきりしたのである。 このような経緯から、村上さんは、数年前まではMysteryだったが、いまはPuzzleになったと話していた。そして、“ガンマ線バーストには、バースト時間が0.3秒程度のものと20秒程度のものの、2つのグループがあるようだ”、“残光を伴わないタイプもある”、“ピークのエネルギーは何故か200keV程度で揃っている”、などなど、具体的に、現在でも未解明の6つの謎を挙げていた。 ぼく自身も、このセッションでポスター発表をしたのだが、最近は横着になって論文の切り貼りで済ませてしまった(図4)。当然だが、綺麗な絵を貼り付けたポスターの方が見栄えがすること請け合いである(図5)。でも絵にしにくい研究もあるしなぁ…
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(クェーサー、活動銀河中心核、銀河間物質) 1.分科会概要 PS4分科会では、表題の通り、活動銀河など大きなスケールでの活動性が議論され、11の口頭発表と27のポスター発表が行われた(図1)。
口頭発表のテーマは以下のようなものだった(ポスター発表は省略する)。 2.トピックス 岡山天体物理観測所所長の吉田道利さんの発表(Very Extended Emission-Line Region around the Seyfert 2 Galaxy NGC 4388)で、2型セイファート銀河NGC4388近傍の、超広大放射輝線領域VEELR(Very Extended Emission-Line Regions)の話があった(図2)。このVEELRは、NGC4388の周辺に4kpcにもわたって広がり、その総質量は太陽の400万倍にものぼると見積もられている。銀河間物質(?)との衝突によって銀河内のガスが吹き流された結果だろうという説が示された。
東北大学の谷口義明さんの発表(Starburst-AGN Connection from High Redshift to the Present Day)では、星が爆発的に形成されるスターバースト銀河と、いわゆる活動銀河の関連が述べられた。最近の観測的研究では、銀河の中心部(バルジ)の星の総質量と、中心の超巨大ブラックホールの質量の間には相関があり、それらの比が、0.001〜0.002程度であることが知られている。この理由はまだ不明だが、超巨大ブラックホールの成因と密接に関連しているに違いない。谷口さんのまとめた意見としては、
筑波大学の梅村雅之さんの発表(A New Picture of QSO Formation)は、谷口さんの発表とは別のモデルで超巨大ブラックホールを作ろうとするものである。
赤方偏移zが6.3以上のクェーサーでは、年齢が10億年もないので、たしかに通常のガス降着過程で超巨大ブラックホールまで成長させることはできない。しかしクェーサーの母銀河は、スターバースト状態などで非常に明るい。そこで母銀河のバルジ領域の星の放射で大量のガスを中心に落としてやれば、10億年より短い時間で大質量の中心天体を作れるシナリオが描ける。
いまはまだ定説がない分野だけに、なかなかワクワクする話だった。
梅村さんとは、夜のセッションでもたまたま一緒になり、旧交を温めることができた(図4)。
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