「宇宙気体力学の現状と展望」研究会@北海道大学
(2006/11/27-28)

「宇宙気体力学の現状と展望」と題した研究会が北海道大学で開催され、 参加発表してきた。 北大の宇宙グループを立ち上げ引っ張ってきた坂下志郎さんが、 今年の5月に74歳で亡くなられたのだが、 宇宙流体分野における坂下さんの業績を記念して開かれた メモリアル研究会である。 ぼくも坂下さんにはたくさんの恩義があって、 秋の学会で筑波大学の梅村さんから講演を依頼されたときは、 一も二もなく引き受けたのだが、ははは、メチャ忙しかった(焦った)。

そうそう、坂下さんから受けた恩義としては、たとえば、

  • 大学院のD1からD2にかけて、宇宙ジェットのモデルを考え始めた頃、 たまたま、当時、非常に良書が揃っていた 恒星社の現代天文学講座『銀河と宇宙』の坂下さんが書いた章を読んだら、 太陽風の話や二つ目玉電波源の話が書いてあった。 当時としては、太陽風などの定常流の扱いについては、 日本語で読める唯一の文章だったろう。 そして、当時勉強していた降着トーラスのモデルと太陽風などの話が 上手い具合に結びついて、幾何学的に厚い降着トーラスのファンネル内における、 太陽風型宇宙ジェットの加速モデルができあがったのだ。 相対論的な定式化は行ったけど、話としては、非常に単純なモデルだったのだが、 ありがたいことに、Fukue (1982)という最初のシングル論文になった。
    もっとも、自分で計算しておきながら、 実は物理過程はあまり理解していなかった。 たとえば、相対論的流れなので、 “なんとなく”比熱比を4/3としたのだが、 後日、伊藤裕さんに、“輻射圧が強い場合を考えているんだね”と指摘され、 はじめて輻射圧で加速されているジェットなんだと認識したことを覚えている。 信じられないみたいだが、ほんとの話である。
  • 大学院のD2からD3ぐらいにかけては、 新星やX線バースターなど、降着円盤の中心で爆発が起こったとき、 降着円盤中を伝播する衝撃波の振る舞いを調べていた。 最初は自己相似解を求めていたのだが、 自己相似解が得られるためには、降着円盤の密度分布に制限かかかるので、 もっと一般的に半解析的に扱う方法を探していたら、 Laumbach-Probstein法という方法に行き当たった。 これは衝撃波が十分に強いとして、伝播方向は半径方向になると仮定し、 それぞれの方向で衝撃波の伝播を独立の取り扱い、 衝撃波面の形状などを求める手法だ。 その方法を坂下さんが宇宙物理に輸入して、 二つ目玉電波源などへ適用していたモノだ(Sakashita 1971)。 もちろん、ぼくが行き当たったのも、坂下さんの論文である。
    もともとのLaumbach-Probstein法は重力場などは入っていないのだが、 降着円盤中の衝撃波の伝播へ適用するために、 中心の天体の重力場や回転の効果などを取り込んで、 幾何学的に薄い降着円盤や厚い降着トーラスへ適用した(Fukue 1983a, b)。 実は、これらをまとめたものが、ぼくのドクター論文だったりする。 坂下さんは影の指導教官みたいなもんである。
  • さらにODになった頃、重力場中の時間的に変化する球対称な流れを、 自己相似的な取り扱いで調べて、新しい解を見つけた(と思った)。 そこで喜び勇んで、論文にまとめて投稿したら、 レフリーから先行研究があって同じ解が得られていることを指摘された。 文献調査は念入りにしたつもりだが、見落としていた論文があったわけである。 通常はそこでアウトで、100人のうち99人ぐらいまでは、 同じ研究があるのだから、論文をリジェクトするだろう。
    ところが、そのレフリーが実は坂下さんで、 名前を明らかにしてくれた上で、 こうこうこういうことをすれば新しい仕事になると、 懇切丁寧なアドバイスをしてくれたのだ。 投稿論文に対して建設的なコメントをもらったことは数限りなくあるが、 ここまでアドバイスをしてもらったのは、後にも先にも一度だけである。 こっちもやがてときおりレフリーをする立場になって、 坂下さんの姿勢を規範としたいとは思いつつ、 なかなかあのレベルまで達しないのが未熟なところだ。
こうやってみると、 流体現象を半解析的の取り扱うという研究手法の面では、 坂下さんから引き継いだモノは多いようで、 直系の弟子よりも血は濃いかもしれないと思っている。
でも、研究会の合間に梅村さんと話したのだが、 ぼくたちが最初に坂下さんに合ったときの坂下さんの年齢(50歳頃)に、 ぼくたちもいまや達してしまったのだが、 あのころ、坂下さんはすでに大教授の貫禄と風格があった。 それに比べると、ぼくたちはいかにも軽いよな〜って感じで、 うーん、困ったもんだ。
青空と雲海
前日から札幌入り。 昼便で飛行機の窓から綺麗な青空と雲海が見えた。
北海道上空
室蘭のあたりだと思う。 なんとか湾も見えている。
北海道上空
雪が・・・
ホテルクレスト
研究会は北大の学術交流会館で行われたので、 札幌駅周辺で北大側のクレストというホテルに宿泊したが、 ここがすごくよかった。 立地条件もよくて、部屋もなかなか綺麗だったのだが、
朝食バイキング
実は、朝のバイキングがものすごくリッチで、 あんなに美味しくかつメニューの豊富だった バイキングははじめてだったかもしれない。 クロワッサンがすごく美味しかったし、 写真を撮るのを忘れたが、 デザートも何種類もあって、これまたよかった。 もし札幌に行くことがあったら、一押し!
学術交流会館
研究会の会場となった学術交流会館。 無線LANも整備されていて、非常に助かった。 あれぇ、研究会の写真はこれしかない。 まじめに参加していた証拠だなぁ。
空弁と地ビール
帰りの飛行機に持ち込んだ、空弁と地ビールの小樽ビール。 北海道は地ビールがどれも美味しくて、 話すのに夢中で写すの忘れたけど、 研究会の懇親会で出た、 北海道限定サッポロCLASSICという 青ラベルのビールもなかなか美味しかった。
講演パワーポイントファイル(6MB)