3冊同時刊行の水無月

3冊同時刊行の水無月だった。

天文学会の教科書『ブラックホールと高エネルギー現象』、 一般向けのサイエンスアイ新書『宇宙はどこまであきらかになったか』、 そして辞書『天文学大事典』が刊行された。 同じ月に3冊も出るのは最初で最後だろう。

教科書の『ブラックホールと高エネルギー現象』は、 間違いを完全につぶせなかった点や、 章によって難易度のバランスが“非情”に悪い点など、 ぼくが関わった本の中では、かなり悔いが残るものになってしまった。 そもそも、天体アウトフローでは亜音速や超音速が難しいと言うことで、 編者が一節をざくっと削った一方、 衝撃波のところでは亜音速流も超音速流も平気で出ているのは理解できない。 あるいは、図を1枚入れればわかりやすくなるところなど、 早い時期からいろいろな意見を出したのだけど、 明白な間違い以外はほとんど聞き入れてもらえなかったからなぁ。 まぁ、編者に嫌われながらも、一執筆者としてやれることはやったので、 いいとしよう。 でも、個人や研究費で10冊ほど買ったけど、あまり教科書としては使えないなぁ。

新書『宇宙はどこまであきらかになったか』は、 当初予定にないフルカラーで出版され、超サプライズだった。 たくさん無理を聞いていただいた執筆者の方にも、なんとか顔向けできる。 編集はとても大変だけど、本ができあがってくると嬉しくなってしまう。 でも、たまたま出かけたジュンク堂書店で、 『ブラックホールと高エネルギー現象』と『宇宙はどこまであきらかになったか』 が同時に平積みされているのを見たときは、 胸中には複雑な思いが去来した、ことはなく、 しまったデジカメもってきとけばよかった、と思ってしまった(^^;。 2冊も平積みなんて、二度とないだろうに…

そして『天文学大事典』。 10年ぐらい前からの企画で、 ぼくが担当部分の原稿を出したのも2000年ごろだったので、 もう出ないかと半分あきらめていた。 遅れに遅れた理由はいくつかあるようだが、 一番大きな原因は原稿を提出しない人や、 提出しても不完全な原稿があったりするためだろう。 天文学者は忙しい人が多いので、 10人に原稿を頼めば間違いなく全員が快く引き受けてくれるが、 必ず、数人の原稿は遅れるし、1人ぐらいの原稿は落ちる。 この『天文学大事典』も執筆者は130人ぐらいになるそうだから、 締め切りまでに原稿を出したのは半分ぐらいで、 数十人の原稿は大幅に遅れたり不完全だっただろうし、 10人ぐらいは原稿落ちしたんじゃないかなぁ。 本当は最初からそういう事態は想定しておき、 どっかの段階で原稿を諦めるなり、執筆者を交替しないといけないのだが、 エライ人が相手だとそうもいかなかったのかもしれない。 というか、編集委員自体も人数が多いので、きっと数人は仕事しなかっただろうなぁ。 出版に苦労しただろうと思うと、なんだか出版社が気の毒になって、高い本なのに、 個人で一冊と研究室で一冊、買ってしまった。 原稿料はおそらくほとんど皆無なのに(とほほ)。