色の認識(Recognition of Color)

光源の色や物体の色を, それらの物理的な特性を測定して数値化することは可能です. しかしながら,実際に一人一人の人間が, たとえば“赤”という色を具体的にどのように感じているかは, 色彩感覚の個人差があり非常に難しい問題です. 色の認識には, 光源や物体の物理的な性質に加え, 目の生理的性質や脳の働き,そして心理学的な要因も絡んでくるのです.


ヒトの視細胞

ヒトの目に入ってきた光は, 眼球の前側の水晶体で屈折して, 後ろ側の網膜上に像を結びます. 網膜には無数の視細胞が並んでいますが, 光が入射してくる網膜の表側には視神経細胞があって, 光を受ける視細胞は網膜の裏側の方にあります.

視細胞には, 根元が棒状の桿体細胞と, 根元が円錐状の錐体細胞があり, 桿体細胞は明暗を感じ,錐体細胞は色彩を感じ分けます.

錐体細胞には,赤色の光で大きな感度をもつものと, 緑色の波長帯で感度が最大になるもの, そして青色付近で感度が高いものの3種類があります. 人間の眼では,主に感度領域の中央(緑色の光)で明るさを捉え, 感度領域の両端(青や赤)で色合いを決めているのです.
錯視


色の認識

一人一人の人間が色をどのように認識し知覚しているかは, 物理・生理・心理などがからみ合った難しい問題です. たとえば,

波長は色ではない

という言葉があります (ニュートンにしたがえば,“光線に色はない”でもいいですが).
一般的には, 「光はプリズムで虹の七“色”に分けられ, 可視光の各波長はそれぞれの色をもっている」 というような言い方をしますが, そして本館でもそのように解説していますが, これは本当は正しくありません. ある光を受けたときに(それが単色光でも複合光でもいいですが), その刺激が脳に伝わってはじめてある種の“色”として認識されるのであって, 光は本来はどの波長も無色透明なのです.

たとえば,私たちの脳は,黄色光を見たときには, もちろん“黄色”として認識しますが, 赤色光+緑色光をみたときにも,“黄色”として認識します. 黄色光と赤色光や緑色光は,物理的にはまったく異なる波長の光ですが, 脳が認識する色としては,どちらも“黄色”なのです.

この例からも,色という概念は, あくまでも感覚であり認識であることがわかるでしょう.

このように物理的・生理的・心理的側面から色を論ずる学問を, 色彩論と呼んでいます. 色彩論は,プリズムで虹を分解した男, かのアイザック・ニュートン (I. Newton)にはじまり (ニュートンの『光学』は1704年に出版されました), トーマス・ヤング (T. Young)やヘルマン・ヘルムホルツ (H. Helmholz) らによる色覚三原色説を経て, ジェームズ・クラーク・マクスウェル (J.C. Maxwell)が測色法を開発し, 現代色彩学に発展していきました. ちなみに,ニュートンと同時代のロマン派詩人ジョン・キーツらは, 虹を分解して虹のもっていた詩情を破壊してしまったとして, ニュートンを非難しましたが,この非難は的外れだったでしょう. なぜなら,スペクトルに分解された虹の向こうには, はるかに深い謎に満ちたセンス・オブ・ワンダーの世界が広がっていたからです.


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