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卒論を書く際の注意点 天文研版(含・卒論発表会)

卒論の第1稿の段階で毎年のように同じ指摘をすることになる点をまとめています (全て実際にあった事例が基になっています).

全般的なこと

くだけた表現

卒論ではできるだけ硬い (フォーマルな) 文体で書きましょう.カジュアルな表現は不適切なだけでなく幼稚な印象を受けます.

スラング・略称

専門用語や長い語句に対し,研究グループ内ではスラングや略称が用いられることがありますが,それらを断りなく卒論に書くのはやめましょう.長い天体名や比較星の略称 (comp, check, C1, C2 など) がよく無断で使用されます.また長い語句を略す際は,その語句が本文中の最初に出てきた場所で「正式な長い名称 (以降,○○と略す)」などとしましょう.

図の出典

自分で作成していない画像や写真による図については,出典 (出所) をかならず明記して参考文献に挙げてください.また図の出典は一次ソースに当たってください.転載などの二次ソース,特に著作権を考慮していないウェブサイト等を出典にすることはほとんどの場合適切ではありません.

誤字・脱字

誤字・脱字・スペルミスを残したまま提出される卒論は非常に多いです.短期間で複数の学生の卒論を読まなければならない立場としては,それらの指摘にかける時間と労力が馬鹿になりませんが,自分の論文の誤字脱字チェックは自分一人がやれば済みます.特に MS Word を使用している場合,たいてい赤色や緑色の波線で警告してくれているはずです.

よくある表記ミス例

スペース

こまかい話になりますが,アルファベットで書いている部分は,カッコの前後や,文字と数字・記号の間に空白 (1バイトのスペース) を入れましょう.そうしないと,英単語ひとつのまとまりと区別ができなかったり,改行が適切になされないなどの弊害がありうるからです.元々ひと続きの固有名詞などの場合は当然この限りではありません.

イントロダクション

コピペ問題

インターネットで公開されているPDF論文やウェブサイトの文章をコピペほぼそのまま借用してイントロダクションや考察のパートに取り入れるケースがこれまで何度もありました (ただ昨今は全学的な啓蒙がなされているようで多少ましになった気がします).常套手段として,微妙に表現を改変するなど苦心の跡が散見されるのですが,普段見ている学生の能力を明らかに超越している内容かどうかは,読めばわかります.

イントロダクションの分量

イントロダクションでは参考文献を「参考」にして実に専門的な文章が長々と書かれ充実する傾向があります.しかしイントロダクションだけで卒論全体の分量の半分を越えていたら,かんじんの卒論の中身はどうなのか見つめ直す時かもしれません.また自分の文章が過去の先輩の卒論など他人の文章の切り貼りで構成されていないか意識する機会を持ってください.

研究の動機や目的

イントロダクションに研究の動機や最終的な目的が書かれていないことがあります.書いている本人としてはその辺は承知の上なので無自覚となってしまうのかもしれませんが,その卒論で扱う天体や現象はどういったものか (発見や先行研究の経緯),なぜ研究する必要があるのか (意義),なぜその研究対象を選んだのか (目的),この研究でどのようなことをするのか (手法),を読者のために記載してください.

観測

観測ログ

観測系の卒論では,観測のサマリを載せることがよくあります.分量にもよりますが,観測ログだけで1ページを越えるようなら,付録として卒論の末尾に付けるのが良いと思います.

装置の「仕様」

観測時のCCDカメラの冷却温度を仕様として書く人がなぜか多くいます (なぜなのかはわかりません).仕様とは,装置の機械的な能力として達成可能な冷却温度あるいはその範囲ですので区別してほしいです.また実際に用いた冷却温度をもし書く場合は観測ログに書くのが適しているでしょう.

星図

天体の画像を載せる場合は星図の視野角・方位 (N, E など)・マークした天体の説明を記載しましょう.

赤道座標の書き方

天体の赤道座標を書く際は赤経・赤緯を正しく書きましょう.コロンで区切って済ませる人が多くいますが,それは上記のスラングに近いです.

解析プログラム内で使われる用語

たとえば IRAF のタスクで用いられるパラメータ名は,あくまで IRAF 内における独自の名前にすぎませんので「……の半径は annulus,……の半径は dannulus」などを断りなく一般的な用語のように書くのは避ける方が良いです.

結果

有効桁

小数点以下何ケタにも及ぶ,ものすごい精度の数字を書く人がいます.有効数字を考えることなく電卓やエクセルの出力結果をそのまま記載している場合がほとんどです.

グラフ全般

グラフを載せる際は,プロットしている点や線がなにを表しているのかキャプションに明記しましょう.またプロットのシンボル (記号) は,なるべくモノクロでも区別できるようにしておくのが望ましいです.

グラフの縦軸と横軸がそれぞれなにを意味するのかも書いておきましょう.また光度曲線の場合,横軸はユリウス日や任意の通日になっていることが多いので,上横軸で対応する日付や時刻を表示するようにしておくと読者が考察を追う際にわかりやすくなります.

gnuplot で作図する場合,key の部分の出力がファイル名そのままだったり,上記のスラングを用いて初見の人には意味不明な表示となっていることがよくあります. title を適切に設定するか,いっそ notitle と設定して図のキャプションなど別の場所で説明するかにしましょう.

参考文献

文献の引用

その文献が存在しなければ書くことのできかった部分や文章の末尾に,その参考文献への引用表示を記載する必要があります (一般的には,勉強のために読んでなんとなく参考にしましたといった類の文献のことではありません).

記述スタイル

卒論で参考文献リストをどのように書くかは人それぞれですが,おおむね以下の2通りのどちらかに統一するのが良いと思います.

卒論発表会

ついでに,卒論発表会に際して,やはり毎年のように同じ指摘をしていると気付いたことをまとめました.

招かれざるエフェクト

発表用のスライドを PowerPoint で作成する際に,エフェクト (アニメーション) をやたらと使いたがる人がいます.エフェクトはよほど効果的に使わない限り,見ている側がしらけるだけですので,まずは使わないと決めておくくらいで丁度良いと思います.

謝辞のスライド

謝辞のスライドは基本的に不要です.ただし研究室外 (特に学外) に協力者がいる場合は言及しておくのが良いかと思います.指導教員へは不要です.研究室の先輩後輩への謝辞は個別の判断になりますが,いずれにせよ内輪ウケはスベると痛いです.

ご静聴スライド

発表の最後に「ご静聴に感謝」する旨のスライドを入れる人がいますが不要です (せいぜい口頭で述べるだけで良いし,そもそも述べる必要もない).

質疑応答の前に

最後のスライドとして謝辞が来る場合もありえますが,発表が終わったら「まとめ」のスライドまで戻し,それを表示させた状態で質問を待ちましょう.


松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)