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パルサーの発見に使われた電波望遠鏡

パルサーを史上初めて発見したことで有名なジョスリン・ベル (Jocelyn Bell) が,ケンブジッジ大学在籍時に電波パルサーを発見したときに使った観測装置は,この写真の背景に写っているようなお碗型の電波望遠鏡ではありませんでした.彼女自身も制作に関与した,ケンブジッジ大学 Mullard 電波天文台の Interplanetary Scintillation Array が用いられました.あまり (というか全然) 電波望遠鏡っぽくありません.

ベルは1967年11月28日に指導教官のアントニー・ヒューイッシュとともにクエーサーを観測していた時,非常に速く繰り返される電波信号を見つけました.その信号があまりに規則的なため,ベルはこの電波源を地球外知的文明からの信号とのジョークの意味を込めて LGM (Little Green Men = 緑の小人) と呼びました.のちにこの電波源は高速自転している中性子星であることがトーマス・ゴールドフレッド・ホイルによって明らかにされました.それと同時に地球外知的文明説も否定されました (SETIの二大誤認のひとつ).

ところで,ヒューイッシュは「パルサーの発見における決定的な役割」により1974年にノーベル物理学賞 (Nobel Prize in Physics) を受賞しましたが,パルサーの第一発見者であり発見論文の第二著者であったベルは受賞対象となりませんでした.このことに対し,ヒューイッシュの同僚だったホイルは強く非難しました.またベルの除外を指して No-Bell 賞だと揶揄する人もいました.ただ本人はあまり気にしなかったようです.なおベルは2018年に基礎物理学ブレイクスルー賞を受賞しています.賞金の全額はマイノリティの学生のために寄付したそうです.

松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)
e-mail: katsura@cc.osaka-kyoiku.ac.jp