OJ 287 を用いた一般相対性理論の検証

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OJ 287 は,太陽の180億倍もの強い重力場 (図4) が時空におよぼす相対論的効果が直接的に発現する,天然の実験場となっています.たとえば,重力波による連星軌道の縮小率は 10-3 のオーダーであり,これは (重力波放射の間接的証明に使われ1993年のノーベル物理学賞の対象となった) 中性子星どうしの連星系 PSR B1913+16 の 10-12 を文字通りケタ違いに上回ります.そのため,相対論的連星系における軌道進化や重力波放射の研究に応用されています.

超高重力場の天然実験場としての OJ 287

歳差連星ブラックホールモデル(図5)からは,重力波による連星軌道の縮小が実際に起こっており,OJ 287 の2つの超巨大ブラックホールは遠くない将来に衝突・合体すると予測されます.また,今後の熱的フレアの開始時期の決定は,一般相対性理論の観測的検証になると期待されています.それはなぜでしょうか?

OJ 287 が一般相対性理論から導かれる「真のブラックホール」であるならば,ブラックホールの唯一性定理と無毛定理が成立していると予想されます.表1の連星系パラメータを導く際に用いられるポストニュートン近似には,四極子-単極子相互作用の効果を考慮する項があります.その項には,キップ・ソーンが提唱した無毛定理の成立を判定するための四極子モーメントとスピンを結び付ける関係式に現われる係数 q が含まれており,これが変数のひとつとなります.OJ 287 のブラックホールにおいて無毛定理が成立していれば,q = 1.0 となります.これを検証するには強大な重力場の存在が必要となりますが,OJ 287 では180億太陽質量のブラックホールの周囲を1億5千万太陽質量の衛星ブラックホールが公転運動しており,その連星軌道の決定から「no-hairパラメータ」q を特定できる可能性があります.

逆に q ≠ 1.0 でなければ実際の増光時期を説明できないならば,無毛定理は実は成立していないか,OJ 287 は真のブラックホールとは異なる構造体である可能性が出てきます.上記の定理は一般相対性理論から導かれるブラックホールにのみ適用されるため,その検証は一般相対性理論の検証にもつながり,修正ニュートン力学など他の重力理論との強い弁別となります.

それを観測的に検証する機会が2019年7月に起こると予想された熱的フレアでした.このフレアの発生時期は,no-hairパラメータ q の値に強く依存することが予測されていたためです.

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図4
図4: 太陽系と比較した OJ 287 の2つのブラックホールの大きさ
(credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC))
図5
図5: OJ 287 の超巨大ブラックホール連星系の想像図 (Dey et al. 2018

松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)