ブラックホールの無毛定理の観測的検証

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ところが OJ 287 は,180億太陽質量のブラックホールの周囲を1億5千万太陽質量の衛星ブラックホールが公転運動しており, その連星軌道の決定から「no-hairパラメータ」q を特定できる可能性があります. 逆に q ≠ 1.0 でなければ観測される増光時期を説明できないなら, 唯一性定理や無毛定理は実は成立していない(一般相対性理論に不備がある)か,OJ 287 は真のブラックホールとは異なる構造体である可能性が出てきます. 上記の定理は一般相対性理論から導かれるブラックホールにのみ適用されるため, もし観測的に検証できれば,一般相対性理論の検証にもつながり, 修正ニュートン力学など他の重力理論との強い弁別となります.

no-hair パラメータの推定

図6は,OJ 287 の小さい方のブラックホールの軌道がどのように歳差するか, および熱的フレアがいつ観測されるかを示す最新の予測です. 原点に大きい方のブラックホールが位置し,y = 0 がその降着円盤に相当します. 図6から明らかなように,今後 OJ 287 の増光間隔はきれいな12年周期から大きく逸脱する時期となります. これらの増光開始のタイミングを決定することで, 歳差連星ブラックホールモデルの妥当性の検証と共に, スピン値や no-hair パラメータ q が連星系の軌道パラメータとして決まります.

図6における2019年7月末の熱的フレアの時期は,no-hair パラメータ q の値に強く相関することが理論的に予測されていました. したがってこのフレアの発生およびその時期を知ることで,OJ 287 の超巨大ブラックホールにおいて無毛定理が成立しているかどうかを観測的に検証できる可能性があります.

できました → プレスリリースをご覧ください.

現実の宇宙に存在するブラックホールにおける無毛定理の成立が観測的に検証できたことで, 一般相対性理論が現実の世界を正しく記述できている証拠が またひとつ積み増されたことになりました.

(ダイジェスト解説・完)


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図6
図6: OJ 287 のブラックホール連星系の軌道の変化と増光時期の予測 (Dey et al. 2018
図7
図7: 図6の2019.569において降着円盤の下 (地球から見て裏) 側から衛星ブラックホールが
突き抜けてきたところの想像図. 2019年7月の OJ 287 の増光はこの時に生じました.
(クレジット:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (IPAC))

松本 桂 (大阪教育大学 天文学研究室)
e-mail: katsura@cc.osaka-kyoiku.ac.jp